トミー・フラナガン『オーヴァーシーズ』
*今月はトミー・フラナガン(ピアノ)参加アルバムを特集します
「名盤請負人」とも呼ばれるほどに、数々の名盤に参加しているトミー・フラナガン。それはサイドマンとして的確なサポートがたいへんに評価が高いことを物語るが、もちろん自身のアルバムも名盤揃いである。その中でもダントツに人気があるのが『オーヴァーシーズ』。これは1957年の録音で、フラナガンの最初のアルバムである。フラナガン、ウィルバー・リトル(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)というトリオ編成で、これはトロンボーンのJ.J.ジョンソン・グループのリズム・セクションであり、そのグループのヨーロッパ・ツアー中に録音されたものだ。
超のつくパワフル・ドラマーのエルヴィン・ジョーンズの、全編ブラシを使ってのプレイが(本来はブラシは弱い音なのだが)ものすごい迫力。どちらかといえば渋めで粋なプレイが信条のフラナガンも、ここでは明らかにエルヴィンに刺激されているのがわかる。最初のリーダー・アルバムということで気合いも入っていたのだろうが、他のアルバムのフラナガンとは筋肉の付き方が違って聴こえる。という点でフラナガンらしからぬという意見もあるが、ピアノ・トリオ・アルバムとしては絶品の1枚である。冒頭の躍動感あふれるブルース「リラクシン・アット・カマリロ」★(チャーリー・パーカー作曲)、続くバラード「チェルシー・ブリッジ」(ビリー・ストレイホーン作曲)、フラナガン・オリジナルのカリプソ風「エクリプソ」と続く変化に富んだ構成も聴きやすい。
また内容のすばらしさだけでなく、スウェーデンのマイナー・レーベルに録音されたという希少価値から、日本では60年代には「幻の名盤」(=高額)として扱われたこともこのアルバムを有名にした。その後、国内でLPも発売されて容易に入手ができるようになり、もちろん今ではCDで容易に手に入る。
『オーヴァーシーズ/トミー・フラナガン』1957年(OJC/輸入盤)
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