『ラウンド・アバウト・ミッドナイト/マイルス・デイヴィス』
“ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィス(トランペット)のスタイルは、まさに“変化してゆくこと”でした。時系列で追いかければその変遷も連続したものになりますが、時代の違うアルバムをそれぞれみればまるで別人のように思えるでしょう。ビ・バップからラップまであるのですから。ですからマイルスの“代表作”というのはなかなか1枚に絞りにくいものですが、この『ラウンド・アバウト・ミッドナイト/マイルス・デイヴィス』は、その1枚に挙げられる傑作です。
1曲目「ラウンド・ミッドナイト」(曲名に「アバウト」は付きません)。プレーヤーのスタート・ボタンを押した瞬間から、あたりは真夜中。ミュート・トランペットの音が冷たい空気を感じさせ、静かな中にも何かが始まりそうな緊張が走る。突然のオープン・トランペットの叫びがその静寂を破り、ジョン・コルトレーンのテナー・サックスが次第に熱くなってゆく……というドラマチックな展開。“ジャズ=夜=ハードボイルド(?)”のいかにもジャズのイメージですが、ここまで完璧に“演出”されたものはそうあるものではないでしょう。
そしてこの“夜の空気”はアルバム全体を通して感じられます。同時期同メンバーでのアルバムは『リラクシン』など多くありますが、このアルバムだけはまったく違う空気が感じられます。「ラウンド・ミッドナイト」の名演のせいか、カッコいいジャケットのイメージなのか、録音の違いなのか、それとも思い込み? と思いながらまた何度も聴いてしまう、奥深い魅力を持ったマイルスの、そしてモダン・ジャズ屈指の名盤です。
『ラウンド・アバウト・ミッドナイト/マイルス・デイヴィス』
(ソニーレコード)1956年他録音