『ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー』
1952〜53年録音
1920年8月29日、チャーリー・パーカー誕生。今年は生誕85年になります。パーカーは1940年代半ばに「ビ・バップ(Be Bop:省略して単にバップともいう)」と呼ばれるアドリブ(即興演奏)手法で、モダン・ジャズの基礎を作りました。その特徴は、曲のコード進行を理論的に展開・分解・置換して再構築し、その新たな進行上でアドリブをとるというもの。しかも非常に速いテンポに八分音符で乗るのが基本で、極端な抑揚と過剰な装飾フレーズでスピード「感」をさらにアップさせるという難度の高い技術といえるものです。
これはそれまでのダンス音楽としてのジャズ=スウィング・ジャズを、「即興演奏のための」ジャズ(=リスナーにとっては鑑賞するジャズ)であるモダン・ジャズへと時代を大きく動かすこととなりました。ビ・バップにおいては、「曲」は歌うためでも踊るためでもなく、アドリブするための枠組みとしての存在なのです。ですからテーマのメロディをどう表現するか、ではなくいかに高度なアドリブをプレイするかが重要視されました。
チャーリー・パーカーが残した音は、今ではノイズだらけのフレーズの断片でも、とにかく残されたありとあらゆる音がCDとなっています。パーカーの音にはそれだけの価値があるということですが、これからパーカー、または「ビ・バップ」を聴いてみようという人には、音も良く有名スタンダードと、有名なパーカーのオリジナルの両方が入っているこの『ナウズ・ザ・タイム』をまずお薦めします。この時期はすでにピークを越えたと見る人もいますが、アルト・サックス+ピアノ・トリオの編成でパーカーのアルトのすごさをストレートに感じることができます。
解説より聴くのがいちばん。まず「キム」で強烈なインパクトを感じてください。早口でまくしたてるような、息をもつがせぬこの音の洪水がビ・バップです。「キム」は2ヴァージョン入っていますが、比べればわかるようにこの曲はいきなりアドリブが始まり、テーマのメロディがはっきりしていません。演奏に「のる」というより「縛られる」ような演奏は、同じジャズでもスウィング・ジャズに比べるとかなりの「クセ」を感じるかもしれません。この「ひっかかり感」をおもしろいと感じられるかどうかは実は好き嫌いが分かれるところ。当時も「踊りにくい」ビ・バップはすぐさま万人の理解を得たわけではなかったようです。
『ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー』(ユニバーサル)