『サムシン・エルス/キャノンボール・アダレイ』1958年録音
今週はジョセフ・コスマ(8/7死去)とキャノンボール・アダレイ(8/8死去)の命日にちなんで『サムシン・エルス』を聴いてみましょう。
このアルバムはアルト・サックス奏者キャノンボール・アダレイのアルバムですが、聴いたことのある人はほとんど「マイルス・デイヴィスの」という認識になってしまうのではないでしょうか。このアルバムで最も有名な、1曲目の「枯葉」(ジョセフ・コスマ作曲)をはじめ、ほとんどがマイルスのトランペット中心で演奏されています。いちばんオイシイところには全部マイルスがいるのです。予備知識がなければマイルスのアルバムと思う方が自然でしょう。
当時マイルスは別のレコード会社との専属契約があり、他社ではリーダーとしては録音できない状況にありました。そこで、ブルーノート・レコードは当時マイルスのグループのメンバーであったキャノンボールを名義上のリーダーとして、実質的にマイルスのアルバムを作ったというのが真相のようです。ここではキャノンボールの持ち味である豪快な"ファンキー"スタイルが聴かれないのも、その理由なら納得がいきます(ニックネーム”キャノンボール”は砲弾のこと)。
さて、このアルバムで最も有名なのは1曲目にある「枯葉」です。マイルス・デイヴィスの代表的な名演であるだけでなく、モダン・ジャズを代表する名演として知られます。
長いイントロのあと、「枯・葉・よ」(と聴こえませんか)と出てくるトランペットのカッコいいこと。選び抜かれた少ない音数で、語るようなアドリブ。クールでハードボイルドなマイルスの魅力が凝縮された演奏です。キャノンボールを含め、他の曲の演奏もどれもすばらしく、統一されたムードのあるよいアルバムなのですが、「枯葉」があまりにもよい演奏のためほとんど目立たなくなってしまっています。キャノンボールには悪いのですが、『サムシン・エルス』はもっぱら「マイルスの枯葉」を聴くアルバムなのです。
『サムシン・エルス/キャノンボール・アダレイ』(東芝EMI)