エレクトリック・ベースの改革者ジャコ・パストリアスが急逝して18年が経ちますが、その人気は今もまったく衰えていません。メジャーな活動期間は10年ほどでしたが、残した功績はたいへん大きなものでした。
フレットレス・エレクトリック・ベース*の個性的な音色、ビ・バップのフレーズを織り交ぜたホーン奏者のようなソロ・プレイ、誰も使ったことのないハーモニクス(倍音:ポーンというベースらしからぬ高い音)でのプレイなど、それまでのベースにはなかった新しいサウンドとアプローチを“発明”し、脇役だったエレクトリック・ベースをソロ楽器のポジションにまで持ち上げたのです。今ではジャコのようなアプローチをするプレイヤーも多いですが、ジャコは家元にして今でも最高峰なのです。
そのスタイルはファースト・アルバムの『ジャコ・パストリアスの肖像』ですでに完成されており、とりわけ冒頭の「ドナ・リー」1曲にそのすべてが凝縮されています。コンガだけをバックにベースを弾きまくるわずか2分半のトラックですが、ジャコはこの1曲で一般的なベースのイメージをひっくり返してジャズ界をあっと言わせました。このアルバムはいわゆるモダン・ジャズのサウンドではありませんが、その後の状況をみるとモダン・ジャズのベーシストにも大きな影響を与えたことがわかります。
なお、同じ頃に(新人の)ジャコはいきなりフュージョンの大人気グループ「ウェザー・リポート」に加入しますが、その時リーダーのジョー・ザヴィヌル(キーボード)に「オレは世界最高のベース・プレイヤーだ」と売り込んだそうです。音にもその性格があらわれているのでしょう。雄弁で自信に満ちあふれているように聴こえますよね。
*フレットとは音程を決める指板上の金属棒のこと。フレットレスはそれがないので指板の表面はアコースティック・ベース同様に平面状で、音質も奏法も通常とは違うものになる。
『ジャコ・パストリアスの肖像』
(ソニーレコード)1976年録音
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