渡辺貞夫『マイ・ディア・ライフ』
■7月はK2HD CDで発売中の渡辺貞夫のアルバムを紹介します。
『マイ・ディア・ライフ/渡辺貞夫』 は、ジャケットがアフリカ旅行者風。1曲目「マサイ・トーク」のMassaiはケニアのマサイ族のことだし、2曲目は「サファリ」、3曲目は「ハンティング・ワールド」となっている。さらに「マライカ」はアフリカのフォークソングをアレンジしたものとジャケットに書いてあるので中身はアフリカ音楽か、と思ってしまうが実は違う。
このアルバムは、アメリカ西海岸のフュージョン(当時はクロスオーヴァーと呼ばれた)の先駆者たちをバックに据えた渡辺貞夫の初のフュージョンアルバム。翌78年の『カリフォルニア・シャワー』が大ヒットし、それがナベサダ・フュージョンの代表作として有名なだけにその影に隠れがちだが、こちらはそれに比べるとかなりジャズ度が高い。つまり『マイ・ディア〜』以前のシリアスなジャズと、ポップ感覚にあふれた『カリフォルニア〜』のちょうど中間あたりに位置している。とはいえ、過渡期的アルバムではなく、これはこれで完成しているスタイルが感じられる作品だ。
録音は77年6月。後に渡辺貞夫と名コンビとなるデイヴ・グルーシンをはじめ、バックのメンバーとはこれが初顔合わせということもあってか、作曲・アレンジはすべて渡辺貞夫である。『カリフォルニア〜』以降はアレンジの多くをグルーシンに任せていることを考えると、ここにはナベサダ・フュージョンの原点があるといえる。
ここでは「L.A.サンセット」という曲をリー・リトナーとのデュエットで演奏しているが、この曲は69年の『パストラル』と70年の『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルの渡辺貞夫』で演奏している「東京組曲:サンセット」である。また、タイトル曲は当時の大人気FM番組「渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ」のテーマ曲だ。この人気曲を新録音で2曲収録しているところをみると、もしかするとフュージョン化には意外と慎重だったのかもしれない。
写真:『マイ・ディア・ライフ/渡辺貞夫』(ビクターエンタテインメント)