渡辺貞夫『ジャズ・サンバ」』
■7月はK2HD CDで発売中の渡辺貞夫のアルバムを紹介します。
『ジャズ・サンバ/渡辺貞夫』 は、『ボサノバ '67』の2ヶ月後の録音でメンバーも同じ。
「ジャズ・サンバ」とはアントニオ・カルロス・ジョビンのボサ・ノヴァ曲「ソ・ダンソ・サンバ」の別名でもあるので、続編ボサ・ノヴァ・アルバムのようなイメージがあるが、内容は大きく異なっている。
ここでの「ジャズ・サンバ」は文字通り「ジャズ+サンバ」のことで、躍動感あふれるサンバが中心のレパートリーだ。ソロもアルトをメインにたっぷりとある。たぶん最初から『ボサノバ'67』はしっとりと、『ジャズ・サンバ』はホットにという考えだったのだろう。
1曲目「サンバ・デ・オルフェ」はパーカッションを生かしたアップ・テンポのサンバだが、いきなりすごい勢いで吹きまくっている渡辺貞夫のアルトに圧倒される。
「ウォーターメロン・マン」は、渡辺貞夫らしからぬファンキーなソロが聴ける。いつものビ・バップ・フレイズは抑え気味で、フラジオを多用した歪んだ音色の絶叫系ブロウは珍しい。「サニー」でも同様だ。
「シー・ラヴズ・ユー」はアップテンポのサンバ。わざわざ「シー・ラヴズ・ユー」でなくてもというぐらい、かなり原曲をとどめないアレンジが施されているが、これはゲイリー・マクファーランドの影響だろう。渡辺貞夫がずっとリスペクトするマクファーランドは「シー・ラヴズ・ユー」「抱きしめたい」など多くのビートルズ・ナンバーをサンバ/ボサ・ノヴァに仕立てている。また、このアルバムでもマクファーランドの「フライド・バナナ」もとり上げている。
といったように、この『ジャズ・サンバ』はサンバ・アルバムの体裁をとっているが、何をやっても「渡辺貞夫は渡辺貞夫の音楽をやっている」と感ぜずにはいられないアルバムとなっている。まさにワン・アンド・オンリーの個性である。
『ジャズ・サンバ/渡辺貞夫』(K2HD盤/ビクターエンタテインメント)