『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説/V.S.O.P.ザ・クインテット』
夏は「ジャズ・フェスティヴァル」の季節。8月はジャズ・フェスから生まれた傑作アルバムを紹介します。
『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説/V.S.O.P.ザ・クインテット』
オリジナル・リリースから12年を経ての再編集盤のタイトルには「伝説」が付いた。何が伝説を作ったかというと、降り続く豪雨である。このアルバムは1979年の「第3回ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」に出演したV.S.O.P.クインテットのライヴ盤だが、会場は東京・田園コロシアム。野外のステージである。大雨となったがステージは決行された。実際にライヴ会場にいた人によれば、傘を使うとステージが見えないため、観客全員全身ずぶ濡れ状態だったという。当然アルバムには雨の音も入っておりかなりの雨量が想像されるが、この雨が観客と演奏者を熱くしたことはアルバムを聴けば明白である。異様な熱気がそこにある。
まあそんな「伝説」も演奏そのものがすばらしくなければ意味がない。このアルバムはV.S.O.P.の傑作の1枚である。V.S.O.P.はトランペットのフレディ・ハバード以外は60年代マイルス・デイヴィス・クインテットのメンバー【ウェイン・ショーター(サックス)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)】、つまりマイルスをフレディに置き換えた「再結成」グループのようにも見えるが、音楽は大きく異なる。V.S.O.P.の特徴のひとつはメンバー全員のオリジナルを演奏するというところにある。このアルバムでも全員の曲が聴け、各人の音楽指向が鮮明に表れている。最後のトラックにスタンダード2曲があるが、これは長時間の拍手の後にやっと行なわれたアンコール。ごく短いテナーとピアノのデュオだが、これもまたすばらしい。
まさに野外のジャズ・フェスティヴァルという「場」だからこそ生まれた名演アルバムだ。
『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説/V.S.O.P.ザ・クインテット』(ソニーレコード)