『ボサ・ノヴァ'67』
■6月はK2HD CDで発売中の渡辺貞夫のアルバムを紹介します。
『ボサ・ノヴァ'67/渡辺貞夫』 は、タイトルどおり渡辺貞夫が67年に吹き込んだアルバムで、渡辺貞夫初のボサ・ノヴァ・フル・アルバムである。
65年秋に3年半のアメリカ留学から帰国した渡辺貞夫は、それまでは日本になかった体系的なジャズ理論を持ち込み、日本のジャズ・ミュージシャンに多大な影響を与えたが、モダン・ジャズと並んでボサ・ノヴァも積極的に演奏した。渡辺貞夫はアメリカから本格的なボサ・ノヴァも持ち帰ってきたのである。
オリジナルのLPのA面にあたる6曲が16人編成のストリングスとセクステットの共演、B面は6曲がセクステットのみの演奏。ストリングス・アレンジは渡辺貞夫と菊地雅章があたっている。冒頭の「イパネマの娘」は渡辺のアレンジだが、アントニオ・カルロス・ジョビンの『イパネマの娘(コンポーザーズ・オブ・ディサフィナード・プレイズ)』のクラウス・オガーマンのアレンジを下敷きにしたもので、ゲッツ&ジルベルト版のようなジャズ・コンボ指向ではないのが少し意外である。A面相当分は全部このようなサウンド指向であり、菊地のピアノも意外にもカルロス・ジョビン風である。
そして、B面相当のセクステットのみの方は一転して吹きまくる渡辺貞夫となる。つまり、1枚で2種類のボサ・ノヴァが楽しめるということ。ボサ・ノヴァにもスタイルやタイプがあるということをはっきりと打ち出しているわけだが、どちらもすばらしい。
また「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」でフィーチャーされる菊地のソロをはじめ、セクステットのメンバーの覇気あふれる演奏も聴き応え十分だ。富樫雅彦の「マシュ・ケ・ナダ」キレのよいドラムにはハッとさせられる。
写真:『ボサ・ノヴァ'67/渡辺貞夫』(ビクターエンタテインメント)