『サキソフォン・コロッサス』その2
『サキソフォン・コロッサス』その2
■5月はK2HD CDで発売中のソニー・ロリンズのアルバムを紹介します。
ソニー・ロリンズの 『サキソフォン・コロッサス』 は、ロリンズの代表作かつモダン・ジャズの大名盤だ。今回はバックのマックス・ローチ(ドラムス)を聴いていこう。
ローチはこのアルバムのもうひとりの主役である。ローチのドラムなしではこの傑作は生まれなかったと断言できるほど、その存在感は大きい。また、「セント・トーマス」などドラム・ソロのスペースもたっぷりある。
このアルバムを録音する前々年の54年秋、ロリンズは突如活動を辞めシカゴに行ってしまった。麻薬の療養のためとも言われているが、55年夏にマイルス・デイヴィスが新しいグループのために誘ったのも断っている。それほどの事情があろう一時引退であったのだが、その年の11月にクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットがシカゴで公演した際、同グループのテナー・サックスが出演できなくなり、ロリンズはシカゴだけの契約で臨時でそこに加わった。だが、シカゴの公演を終えてもロリンズはそのままグループに残り、ニューヨークに同行。ブラウン=ローチ・クインテットの一員として再びロリンズの快進撃が始まったという経緯がある。
いわばローチのドラムがロリンズを第一線に引き戻したのである。だからロリンズにとっては、このアルバムでも親分ローチを大きくフィーチャーするのは当然、そのすばらしいドラムがあれば自分の演奏もさらによくなることを知っているのである。このような関係だからこそ、この名演があったと言えるだろう。
なお、この録音の4日後、クリフォード・ブラウン(と同クインテットのピアニスト、リッチー・パウェル)は自動車事故で死去。ローチは精神的に大きな打撃を受けるが、グループは大きなブランクなく活動を再開する。ローチの新クインテットでの録音前に、ロリンズは自身のアルバムでそのメンバーをほぼそのままフィーチャー(予行演習?)するなど、今度はロリンズがローチを支えた。ロリンズはきっと恩義に厚い人なのだ。
写真:『サキソフォン・コロッサス/ソニー・ロリンズ』(ビクターエンタテインメント