『ポートレート・イン・ジャズ』 その1
■今月はK2HD CDで発売中のビル・エヴァンスのアルバムを紹介します。
ビル・エヴァンスは100枚をゆうに超えるアルバムをリリースしているが、中でも
『ポートレイト・イン・ジャズ』は『ワルツ・フォー・デビイ』と並んでもっとも知名度の高いアルバムの1枚だ。
そのアルバムの中でもっとも聴かれていると思われるのが「枯葉」。もともとシャンソンの曲だが、ジャズでは演奏する人にも聴く人にもたいへん人気がある(名曲の項参照)。『ポートレイト・イン・ジャズ』にはステレオとモノラルの2ヴァージョン収録されているが、これはCD化によるボーナス・トラックではなく「枯葉」はLP時代から2ヴァージョン収録されていたものだ。(CD化の「+1」は「ブルー・イン・グリーン」)
ふつうはベスト・テイクをひとつに絞るわけだが、どうして2ヴァージョン? しかもステレオとモノラルで。
この録音の行なわれた当時(1959年)は「ステレオ録音のレコード」はまだ出始めたばかりだった。ステレオはまだまだ一般的ではなかったが、リヴァーサイド(レコード会社)はこのアルバムをステレオ盤とモノラル盤の両方で出すため、録音はそれぞれのレコーダーを同時に回していたのだが、「枯葉」の演奏中にステレオの方のレコーダーが故障してしまったという。しかもその演奏がベスト・テイクだったものだから、さあ大変! というわけだが、大して大変でもなかったらしい。迷わず(?)モノラル盤にはベスト・テイクを収録し、ステレオ盤には次善のテイクを収録したという。
なぜ迷わず(?)だったかというと、当時「ステレオ」はぜんぜん普及しておらず(売上でも)あまり重要視されなかったからという。そしてステレオLP時代になった時、その両方を収録したというわけ。でも驚くのは「次善の」ステレオ・ヴァージョンもすばらしい演奏であること。エヴァンス・トリオのすごい力を感じてしまう。
写真:『ポートレイト・イン・ジャズ/ビル・エヴァンス』(ビクターエンタテインメント)