ビル・エヴァンス
『ハウ・マイ・ハート・シングス』と『ムーンビームス』 その1
■今月はK2HD CDで発売中のビル・エヴァンスのアルバムを紹介します。
ビル・エヴァンスの楽器はピアノというよりも「ピアノ・トリオ」と言えるほどにトリオ編成(ピアノ/ベース/ドラムス)のアルバムが多い。さらに同じメンバーで何枚も作っているから、これからエヴァンスのCDを買おうと思っている人にとっては、迷うばかりだと思う。
ジャズCDのガイドブックなどを見ると、そのほとんどがエヴァンス・トリオといえば、まず(以前このページでも紹介した)『ワルツ・フォー・デビイ』〈エヴァンス、スコット・ラファロのベース、ポール・モチアンのドラムス〉が最初の1枚として定番とされている。それには異論はないが(当店でもお薦め)、見方を変えるとそのトリオはエヴァンスが活動した30年ほどの期間の若い頃の数年でしかない、ということ。
『ハウ・マイ・ハート・シングス』と 『ムーンビームス』は、そのスコット・ラファロの次のベーシストであるチャック・イスラエルを迎えた初めてのレコーディング・セッションから編集された双子のアルバム。イスラエルはエヴァンス・トリオの歴代ベーシストではもっとも目立たないが、ラファロの突然の死去(自動車事故)で猛烈に落ち込むエヴァンスを再起させた重要な役割を果たしたベーシストであるのだ。エヴァンスも気に入ったらしく、そのトリオで5年も活動を続けている。
このトリオで最初に録音された曲は「ハウ・マイ・ハート・シングス」。決してラファロの「格下」には聴こえないと思うがどうだろう。このベースがエヴァンスを力づけたのだ、と思うと俄然いいベースに聴こえてくる? かも。
写真:『ハウ・マイ・ハート・シングス』(ビクターエンタテインメント)