アントニオ・カルロス・ジョビン『波(ウェイヴ)』
今月はアントニオ・カルロス・ジョビンの参加アルバムを紹介しています。
ボサ・ノヴァはもともと小編成のシンプルな演奏で始まったが、クインシー・ジョーンズはビッグ・バンドで演奏したし、家元ジョビンは管弦オーケストラと演奏するスタイルのアルバムを多く発表している。
アレンジャー、クラウス・オガーマンとのコンビがよく知られるが、その中でももっとも人気があるのは『波(ウェイヴ)』だろう。タイトル曲「波」★はジョビンを代表する(といってもたくさんあるが)1曲でもあり、ここでジョビンはすばらしいピアノを聴かせる。
テーマ・メロディを奏でるやわらかな音色、そしてソロのフレーズの美しさ。アドリブなのかあらかじめ書かれたものかはわからないが、何回聴いても飽きることはない。ピアニストとしてのテクニックがあるという印象は持てないが、ここでこれ以上何が必要だろうか。
そしてクラウス・オガーマンのアレンジも洗練の極みだ。オーケストラはひとりのプレイヤーのようにジョビンのピアノに呼応する。わずか2分半の演奏に、ジョビン+オーケストラの完成された美しいスタイルが凝縮されている。
ちなみに、「波」の好評を受けて、ジョビン自身が「波」と同じコード進行を用いてもう1曲作っている。もう1曲というより「波」の別ヴァージョンというべき曲で、タイトルは「潮流(タイド)」と付けられている。
『波/アントニオ・カルロス・ジョビン』1967年録音(ユニバーサル)