クリスマス・アルバムで女性ジャズ・ヴォーカルものってホントにたくさんあって、何か1枚買おうかな、なんて思ってもとても迷ってしまうんだけど、今年買うならエミリー・クレア・バーロウは絶対にオススメだね。特別に今年という理由はないんだけど、エミリーは絶対今後もっとメジャーになる人だから、今から聴いて(目をつけて)おくといいよってこともあってね。
エミリーはカナダのトロントで活動中とのことだけど、98年に最初のアルバムを出しているから、もう経験も実力も十分。05年、4枚目の『ライク・ア・ラヴァー』が日本のデビュー盤になって、6枚目の『ザ・ヴェリー・ソート・オブ・ユー』が07年8月に出た。この『ウィンター・ワンダーランド』はその間の06年に本国でリリースした5枚目にあたるアルバム。その『ザ・ヴェリー・ソート…』でも感じたけど、まず声がいいね。ちょっと甘くて、でもしっかりとしていて、歌い方はジャズ・ヴォーカルの伝統に則った直球勝負。スキャットもバリバリ。でも軽やかさが今の感覚なんだな。
トップは「ねえ、大晦日はどうするの?」(マスター訳です)。ストリングスが柔らかくからむんだけど、このアレンジはエミリーによるもの。ストリングスだけじゃなくて全曲全パートのアレンジとプロデュースもこなすというから、見かけと甘い声に似合わず(?)相当な音楽的底力を持った人なんだね。2曲目はバースから入る「ウィンター・ワンダーランド」。これはアルバム中、最も気に入ったね。ギターだけをバックに歌い、長いスキャット、そしてテナーサックスとの掛け合い。ギターは地味ながらもツボをおさえた堅実な腕前。ヴォーカルにうまく寄り添って、エラ・フィッツジェラルド&ジョー・パスの名コンビをちらと連想させる。
3曲目の「そりすべり」はアップテンポのサンバ風。ここでもスキャットをたっぷり。これはすばらしい。フレイズも表現も(こう言ってはナンですが)その後に出てくるフルートのソロより断然印象的だ。フルートとからみながらエンディングに向かうフェイクもごきげんで、そうかフルートはもともと引き立て役なのか(?)。と、聴いてきて思うのは、いわゆるクリスマス・ソング集なんだけど、まったく普通にスタンダード・ジャズとして聴けること。「企画もの」の感じがしないのね。上手い人は何を歌ってもやっぱり上手いなんていうと当たり前すぎるけど。
6曲目「外は寒いよ」は男性ヴォーカルのマーク・ジョーダンとのデュエット。スウィンギーな4拍刻みのギターと飾らないピアノの伴奏。7曲目「リトル・ジャック・フロスト」はピアノ、ベース、ギターの編成で、途中はベースだけをバックにしていたりする。この曲だけでなく全体の基本はこのごくシンプルな編成だ。どうすれば自分の声が引き立つかは自分がいちばんわかっているんだろうな。8曲目「恋に寒さを忘れて」のストリングスの使い方も、歌とのからみが絶妙。自分でアレンジできる強味は大きいはずだ。
ぐいぐい引き込まれてしまって、10曲目のバラード「エンジェルズ・ララバイ」まで終るのもあっという間。しっとりとした余韻を残してこの曲は終るんだけど、日本盤にはこの後にボーナス・トラックが1曲入っている。ちょっと宣伝くさいですが、これいいですよ。ミディアム・ファスト(ちょい速)テンポのノリのいい曲で、気持ちよくアンコールが始まったという気分なのね。サックスとギターも他の曲に比べて長めのソロをとったりしてるし。このオマケは買いだね。
というわけで、体裁はクリスマス・アルバムなんだけど、そういうつもりじゃなくて(つまりひとつの作品として)聴いてもごきげんなアルバムです。餅食べながらでももちろんオーケイですよ。