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マスターのお話

音のこだわり「ウッドコーンスピーカー」の秘密

その2 〜開発は試行錯誤の連続だ
その1その2その3


ウッドコーンオーディオシステム開発者の今村智氏(日本ビクター主幹技師)に聞く「こだわり」。第2回めは、世界初の木製スピーカーコーンの開発について。話を聞いていると、どうもオーディオ技術者という人種は、24時間音のことばかり考えているらしい。もちろんお酒を飲んでいる時でも。だってウッドコーンは酒の席で生まれたのですから。これホント。



マスター:ウッドコーンスピーカーは、コーンだけでなく多くの部分が木で作られている「楽器」ということはよくわかりました。今回は楽器の発音部分である「コーン」についてうかがいます。前回、加工が非常に困難とお話されていましたが、具体的にはどんなところが難しいのですか?

今村:今は全部クリアして商品化されましたが、最初は難しいことだらけでした。実はビクターはウッドコーンの開発を20年ほど前に一度断念しているのです。木を薄いシートにして張り合わせた当時の試作品が今でも大切に保管されていますが、大きく変形しています。加工の難しさに加え、よく言われるように「木は生きもの」なので湿気などですぐ変形してしまうのです。木がコーンの材質として優れているということはわかっていても、作れなければしょうがない。当時は商品化には至りませんでした。

マスター:そして今村さんが再び着手したと。

今村:8年前に、最初に試作した先輩とともに再始動しました。絶対いい音になるという確信があったので、なんとか形にしたかったのです。ただ、一度は終った企画ですから予算も少なく、他の仕事の合間に研究するというスタートでした。まあ、しょうがないですよね。完成させられる保証はどこにもないわけですから。

では順を追って難しいところをお話します。 これがコーンになる前のカバの板です。この木の薄いシートを円錐状のコーンにするのですが、ちょっと触ってみてください。

マスター:これはかなり固いですね。これを変形させるって…、パリッと割れそうですね。もっとしなる木材かと想像してました。

今村:簡単に工程を説明すると、まずカバの丸太をロータリー方式で切り出し、薄いシートを作ります。大根の桂剥きの要領ですね。それを小さくカット、V字型の切り込みを入れて円錐状にしてプレス機で成形、となりますが、そのまま作ると固い木ですから、おっしゃるとおり割れます。とにかくいろんな方法を試しましたが、木材そのままでは「割れ」は避けられませんでした。

マスター:でもウッドコーンの表面はキレイな曲面になっている…。

今村:そのために木を柔らかくしたのです。使ったのは何だと思いますか? 実は日本酒なんです(笑)。日本酒に浸すと割れなかったのです 。

マスター:日本酒?(またまた〜)

今村:この発見がなければウッドコーンは出来ていないでしょうね(笑)。 ある夜、行きつけのスナックでおつまみにスルメが出てきたのですが、 それが柔らかいのです。ふつうは乾燥して固いですよね。 ママに理由を聞くとそれを ”日本酒に一晩浸した”という答えが返ってきた。 コレはいけるのでは!と思って、早速翌日から実験をしてみると・・・ 木材も日本酒で柔らかくなったんです! 柔らかくといっても、もちろんスルメのような柔らかさではありませんが、 日本酒に浸してから加工すると割れがなくなったのです。

マスター:(ひらめいたその晩の酒はうまかっただろうなぁ)他の酒じゃだめなんですか?(スルメと日本酒の関係データもあったりして)

今村:もちろん調べました。研究室に酒ビンがずらりと並んでしまいました(笑)。では、問題です。ウイスキー、紹興酒、ワインのうちこの加工に使えるものはどれでしょう?

マスター:(どれでしょう?って、こっちが聞いているのに)ウイスキーとワインは木の樽に入ってますよね、そういうことと関係は…

今村:ないですね。研究を重ねたところ、これは日本酒に含まれるグリセリンやブドウ糖の保水効果の作用ということがわかりました。この中でウィスキーだけが蒸留酒ですが、蒸留酒はアルコール度数が高く、保水効果が低いので使えません。ワインは日本酒と同じ醸造酒ですが、他の成分でベタベタになってダメ。同じく醸造酒である紹興酒は保水効果はいいのですが、木に黄色く色が付いてしまうのです。結果としてスルメ同様の日本酒が最適だったのです。とはいえスルメ食べてからここまで1年かかりました。

マスター:あの日飲みに行かなければ、そしてスルメが出なければ、ウッドコーンは無かったわけですね。

今村:しかし実はこの後の方がもっとたいへんだったのです。

マスター:え?何が大変だったのですか?

今村:「割れ」は解決しましたが、今度は「変形」の問題が起こりました。プレスで成形したものを高温高湿の環境に置いておくと 一晩で反り返ってしまうのです。やはり木は生きものなんですよね。では何か塗ってコーティングして やればいいのではないかと、さまざまな素材を試してみました。

マスター:木の楽器もさまざまなコーティングがされていますよね。

今村:一般的な素材はほとんど試しました。変わったところでは漆、柿渋、スモークつまり薫製にも してみました。

マスター:薫製?あらゆる可能性を試したんですね。

今村:結果として木材専用の熱硬化樹脂を使うことにしました。これは変形にはたいへん 効果があるのですが、いかんせん音が悪い。木の音が出ないで樹脂の音がする。またまた試行錯誤の連続です。 この解決までに4年かかりました。その結果、変形にも耐え、しっかり木の音が出るウッドコーンが出来上がった というわけです。結局、プロジェクトが〜細々と〜再始動して「スルメ」と「変形」を経て商品化までに 5年がかりとなりました。

マスター:こんな小さなスピーカー(なんて言ってはナンですが)にそんなに手をかけていたんですね。何かきちんと正座して聴かなければならないぐらいですね。

今村:これでも簡単に説明しているんですよ。成形は3回のプレス工程があるし、他にもそれまでになかったさまざまな方法を試しています。その結果、ウッドコーン関連で11件の特許が成立しました。

マスター:……。(すごい)

今村:では、前置きが長くなりましたが、音を聴いていきましょう。今セットしますから。

 

あとがき

技術者の熱意だけが起動力となり、他の仕事の合間に細々とスタートさせたプロジェクトが、ビクターのひとつの顔ともいえる個性的な製品を作り上げた。「スルメ理論」はドラマチックだが、それを形にしてゆく地道な試行錯誤の繰り返しなくしては完成には至らなかったはずだ。ウッドコーンはまさに今村さんの「こだわり」の結晶だ。次回は最新コンポEX-A3の魅力に迫ります。


続く
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