このアルバム聴いてまず感じたのは、ラリー・カールトンはいろんな顔を持っているギタリストだということ。とにかくカールトンが常に第一線で活動を続けてこられた理由のひとつは、その幅の広さにあると思う。
カールトンのキャリアを振り返ってみると、まずはフュージョン・ギタリストとしての顔。78年の大ヒット曲「ルーム335」は広く一般にも知られていると思う。当時はフュージョンではなくてクロスオーヴァーと呼ばれていたけど。そう「ルーム335」(しみじみ)。40代以上の人ならどこかで必ず聴いている、よね? イントロの爽やかなコード。16ビートのサウンドはジャジーなテイストだけど、ギターの音はロックっぽくて、新鮮だったなあ…。あ、いきなり横道だ。ソロ・ヒットの前はクルセイダーズのギタリストだった。
そしてジャズ・ギタリストとしての顔。デビューはジャズ・ギターを弾いていたことはそれほど知られてはいないかもしれない。ジョー・パスにも習っていたんだって。まあ、その後の活躍を見れば、ジャズが根っこのひとつということはよくわかるし、86年には『ラスト・ナイト』というジャズ・アルバムも出した。90年代にライヴでジャズ・スタンダードを弾いているのも観たことがあるよ。
そしてロック・ギタリストとしての顔。70年代半ばから多くのロックやポップスのアルバムでカールトンの音が聞けるよね。ジョニ・ミッチェルやスティーリー・ダンのアルバムは常連。そういえばアイドルだった野口五郎が昔『時にはラリー・カールトンのように』というアルバムを出していた。そのアルバムにはカールトンは入ってないんだけど、その後のアルバムには参加しているね。あ、また横道だ。最近の『ファイアー・ワイアー』はかなりロックだ。
そしてブルース・ギタリストとしての顔。93年の『レネゲイド・ジェントルマン』というアルバムで、ついにというかやっとというかブルース・アルバムを作った。カールトンのギターを聴き続けていた人ならば、いつかはブルースをやるだろうという予感はあったと思うんだけど、本人も作りたくてもフュージョン系のオファーが多くてなかなか作れなかったらしい。何事も最初はたいへんなんだろうな。その後は2003年に『サファイヤ・ブルー』で再びブルースをプレイ。
それらのソロ活動の一方で、最近では大人気スムース・ジャズ・グループ、フォープレイのギタリストとしても広く知られる。前任のリー・リトナーからチェンジした時は、ええっ?という気もしたが、今ではカールトンでなければフォープレイにならない。もう9年目だって。月日の経つのは早いねえ。
というふうに、カールトンはジャンルを超えたスーパー・ギタリストなんだけど、フュージョン/クロスオーヴァーといっても(例えばリー・リトナーと比べてみると)ガチガチでキメキメのテクニック音楽ではないし、ゴリゴリのジャズでもない。ロックしかり、ブルースしかり。いろいろな音楽スタイルで演奏しても、ギター・スタイルは徹底して一貫しているところがカールトンのすばらしさなんだね。一言でいうと、何を弾いてもカールトンはカールトン、てこと。