Victor Jazz Cafe - ビクタージャズカフェ

Q47.　ID：tsuitaさんの質問
このあいだの質問で、ベースとドラムの奏法の名称が紹介されていましたが、その他の、例えばジャズ・ギターの奏法で知っておいた方がいいものってありますか？　私は演奏はしないので、ライナーノーツなどでわからない言葉がけっこうあるんですよね。

tsuitaさん、いらっしゃいませ。
たしかに、よく使われているけれどわかりにくい専門用語ってありますよね。では、今回は「ライナーノーツによく出てきそうな」ジャズ・ギター用語を説明します。たくさんあるのでどんどんいきますね。

【ピッキング】＝弦をはじくこと。「ピッキングが強い・速い」というふうに使われます。はじくためのプラスチック板はピック（フラット・ピック）といいます。指ではじくのはフィンガー・ピッキング。ピックで上から下に弾いたり（ダウン・ピッキング）、その逆（アップ・ピッキング）、それを交互に弾いたり（オルタネイト・ピッキング）、「ジャラーン」と複数弦を一方向に弾く要領でフレイズを作ったり（スウィープ・ピッキング）と、最初に音が決まる部分だけに奥深い。ウェス・モンゴメリーが親指でピッキングするのは有名ですね。今気がついたけど、「はじく」って「弾く」って書くのね。ギターを「ひく」ことはまさに「はじく」ことなんだね。

【カッティング】＝コードをリズミカルに弾くこと。コード・ストロークとも言うね。4ビートなら「ジャッカ・ジャッカ・ジャッカ・ジャッカ」というアレ。ギターならではの演奏法ですね。カウント・ベイシー楽団で知られるフレディ・グリーンは、ソロはほとんど弾かずこれ一筋だった。

【コンピング】＝伴奏のこと。「バッキング」も同じ意味で使われますが、コンピングはコード（和音）での伴奏を指します。ジャズでコンピングするのは、ギターかピアノですね。あ、ヴァイブラフォンもありか。

【シングル・ノート】＝単音、ひとつの音のこと。一般的にギター・ソロのほとんどはシングル・ノートによるものなので、下記の他の奏法と区別するときに使われることが多い言葉です。でも注意しておきたいことがひとつ。昔、ギターはリズム楽器でした。それがエレクトリック・ギターの出現で（音が大きいので）シングル・ノートでソロができるようになった、つまり管楽器に対抗できるソロ楽器となったことがモダン・ジャズ・ギターの始まりなので、時代によっては「シングル・ノートでソロをとる」ということに意味がある場合があります。

【オクターヴ奏法】＝1オクターヴ離れた2つの音を同時に弾く奏法。ギターでは1本の弦を挟んだ2本の弦（例えば1弦と3弦、2弦と4弦）を同時に弾きます。ウェス・モンゴメリーの代名詞的「必殺技」ですが、ウェスは親指でピッキングしているにも関わらずすごいスピードでフレイズが出て来ます。

【コード・ソロ】＝シングル・ノートではなく、オクターヴ奏法でもなく、コード（和音／3音以上）でソロを弾くこと。ジャズ・ギターならではの奏法ですね。ジム・ホールは昔から大胆なコード・ソロを聴かせます。ちなみにウェス・モンゴメリーは、ソロをまずシングル・ノートで始めて、オクターヴ奏法で盛り上げて、最後はコード・ソロでクライマックスという構成をとることが多いので、ウェス（の特にライヴ盤）を聴けば、以上3点はよくわかりますよ。

【コード・ワーク】＝コードによる伴奏、またはその作り方のこと。同じコード進行でも、どの音の組合せにするか、どのように流れを作るかはプレイヤーによって千差万別です。共演者の演奏にその場でどう対応できるか、技術はもちろんセンスが問われますね。

【スケール・アウト】＝ソロで故意に音を外すこと。スケールは音階・音列のことで、この場合はコードに沿った（合っている）音列という意味を持っています。ですからスケール・アウトはソロのフレイズが、コードから外れているということなのですが、「敢えて外した」という意味で使われます。単に「アウトする」とも言われます。外れ過ぎたり、外した後にちゃんと（インに）戻ってこれなかったりすると「間違って外れた」と聞こえてしまいますので、非常にセンスが問われます。でも決まるとスリル満点ですね。また、どこまで「センスのいいアウト」として許容できるかは聴き手によって違ってくるでしょうね。蛇足ながら、もちろんこれはソロに限ってやることで、コンピングがアウトすると演奏が破綻します（笑）。

スケール・アウトは、ギターでは80年代初頭からジョン・スコフィールド、マイク・スターンらが広く浸透させ、今では珍しくなくなってしまいましたが、こういったアプローチを積極的に始めたのは、何と言ってもサックスのマイケル・ブレッカーでしょう。70年代半ば、ブレッカー・ブラザーズやさまざまなレコーディング・セッションで聴かせた、緻密な理論と高度な技術に裏打ちされたブレッカーの絶妙にアウトさせたフレイズはまさに衝撃的でした。ピアノのハービー・ハンコックのアウトも昔から強烈ですよね。

と書いてきて気がついた。このように「アウト」は特にジャズ・ギターだけのものではないのに、どうしてジャズ・ギターの技としての印象が強いのだろう。やっぱりジョン・スコフィールドの大活躍からかな…、いや、ギター界ではブレッカーとは別にジム・ホールからの流れもあるなあ…。話題がアウトして戻れなくなりそうなので、今回はここまで。またの質問お待ちしています。