Victor Jazz Cafe - ビクタージャズカフェ
マスターに聞こう！
同じアルバムがCD、DVD-Audio、SACDなどいろいろなディスクで出ており、値段もかなりの開きがありますが、音質に値段分の差があるのでしょうか。私の住んでる田舎では聞き比べる事もできません。教えてください。
hamuiniさん、いらっしゃいませ。
現在、ジャズが聴けるデジタル・オーディオ・メディアはCD、HDCD、SACD、DVD、DVD-Audioといったところがあります。それぞれ見た目は同じ直径12センチの光ディスクですが、CDとHDCD以外は互換性がありません。さらに最近はCDと同じ仕様ながら、材質の違いで高音質をうたっているSHM-CDがあったりと、なんでこんなにいろいろあるの？というぐらい。疑問ももっともですよね。
1980年代初頭、CD［CD-DA／Compact Disc Digital Audio］が誕生したときは、CDのデジタルフォーマット（16ビット／サンプリング周波数44.1kHz）は人間の可聴範囲の音すべてを入れることができる夢のオーディオと宣伝されていました。その名のとおりサイズも小さく、取扱いが楽ということもあって爆発的に普及し、数年のうちにはアナログレコードを市場から追い出し、音楽メディアの主流となって今に至っています。
でも、実はCDの規格では入りきらない音の要素がたくさんあったのです。CDに入り切らなかったものとは、人間の可聴範囲を超える超高域や--聞こえなくても人間の感覚に影響を与えているというのは今や常識ですね--音のキメの細かさといったものです。音というアナログな空気の振動は、もともとデジタルには変換不可能なのですから、その情報をどれだけ忠実に変換し、記録できるかというのは永遠の課題です。そしてCDの発明から20年以上が過ぎ、デジタル技術の急速な進歩は、CDより多くの情報を入れ、そして出すことのできるメディア、言い換えればCDより「元の音をより忠実に再現する」ことができるメディアを作り出しました。それがSACDやDVD-Audioです。
さて、私マスターはけっこう新しもの好きなので、こういったものにはことごとく手を出してきました。同じアルバムをLP、CD（複数）、DVD-Audio、SACDで持っているものもあります。新録新譜ではさすがにこういうアルバムはありませんが、アナログ時代に作られた有名アルバムなら例えばビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』などいくつもあります。では、どれがいいのか。収録音源は同じなのに、おっしゃるとおり値段もけっこう違います。聴き比べての結論は、こうです。
「違いがある」。それだけ。
どれがいいかというのは「お好みで」というしかないかなあ。高音質メディアとCDを比べて聴いて、CDでは聞こえなかった目の覚めるようなリアルな音に驚いたり、聞こえなかった響きを感じたりということは何度も経験しました。CDに比べ、確実に「底上げ」が図られているのは感じます。でも、CDに比べて何か物足りないと感じることもあったりと、全部が全部よいというわけではないというのが素直な感想です。値段分以上の差（感覚の問題ですが）があるものもあれば、ないものもある。20年ぐらい音楽を聴き続けている人なら、アナログLPとCDを聴き比べたりしたことがあると思いますが、どちらにもそれぞれの魅力がありますよね。SACDとCD、DVD-Audioも同じです。
結局、元の音そのものがいちばん大切なところで、元の音が悪いものはいくら高音質メディアにのせてもよくなることはないものです。逆に元の音がよければ、どんなメディアでもその範囲内で最大のよさを出せるということです。ですから元の音をいかによく仕上げるか、また、そのメディアにいかにロスなく入れ込むかがまずは重要なのです。いわゆる「（リ）マスタリング」がそれにあたるわけですが、それには当サイトでもたびたび紹介してきたK2やK2HDなど、さまざまな方法があります。これまでCDだけでもマスタリング違いでたくさんの種類がリリースされてきましたが、メーカーもまずは元の音をよく磨き、できるだけいい状態でメディアに入れようとしているわけです。
私マスターとしては、さまざまなメディアの登場によって、細かな「違い」を聴くという新しい楽しみ方が増えたのではないかと思っています。幸い最近ではユニバーサルプレーヤー1台で済みますしね。メディアの違いを試すなら、まずはSACD-Hybrid（CDとSACDが1枚のディスクに収録）や、日本盤では少ないですがCDとDVD-Audioのセット（同じ音源）を探してみてはいかがですか。おもしろいですよ。
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