Gerstnerさん、いらっしゃいませ。
では、さっそく。
前回は「歴史的資料/記録」というものでしたが、今回はDVD時代の作品から。 映像作品の特徴は、当然ですが「音だけではわからないこと」が見てわかるというところです。もうひとつは「映像というメディアでなければできないこと」があること。 ライヴ盤で映像作品と同じ演奏のCD作品が出ているものがよくありますが、ジャズは「音」が主役ということか、鑑賞はCDで充分、つまりせっかくの映像なのにオマケ的に扱われているようなところもないわけではありません。でも、見ることによってCDの、つまり音の印象が変わってくるような映像作品もたくさんあります。今回はそんな観点からいくつか挙げてみます。
まずは、チック・コリア2001年の『ランデヴー・イン・ニューヨーク』というライヴDVD BOXの中の『チック・コリア&ボビー・マクファーリン・デュエット』。ジャズ・クラブでのピアノとヴォーカルのデュオです。このふたりのライヴはCDも出ていますが、映像があるとさらに楽しめる例です。マクファーリンは超絶テクニックによるさまざまな音色のスキャットが売りなのですが、例えばトランペットのような声を出しているときは、マイクをトランペットに見立てて、トランペッターのような格好で歌っているのね。また、しっとりと歌う時はピアノを弾くコリアの横に並んで座ってささやいていたりと、派手さはないんだけどそのパフォーマンスが音と不可分なのが、見るとよくわかります。これを堪能するにはやっぱり音だけじゃ足りない。(国内盤はBOXセット/輸入盤はバラ売りあり)
そして、渡辺貞夫1985年のライヴ作品『パーカーズ・ムード』。ニューヨークの若手トリオを従えてのビ・バップライヴ・セッションです。これは同じ演奏を収録した同名のCDも出ていて、音だけでも傑作なんですけど、初めて見た時(当時LD/VHS)は驚きました。なんと全編モノクロ、しかもわざと昔風の加工がされているのです。前回紹介したマイルス・デイヴィスや、有名な50年代のチャーリー・パーカーの映像を知る人はわかると思いますが、楽器がキラリとではなく、にじんで光るあの感じ。タイトルも50年代の映画風。凝っているなあ。古くて新しい不思議な感覚です。もちろん音はハイファイですが、CDとは違って聴こえてくるかも。これこそ映像作品ならではの表現ですね。
ところで、パット・メセニーの「世界に1本しかない42弦ギターでのソロ演奏」というのがあるんですが、想像できますか? メセニー・グループのCD『イマジナリー・デイ』の1曲目「イン・トゥ・ザ・ドリーム」がそれなんですが、ソロ演奏とクレジットされていてもCDでは「ギターの多重録音のような音」で終ってしまうかも。でもこの演奏は聴くと見るとじゃ大違いです。DVD『イマジナリー・デイ・ライブ』には、この曲のソロ演奏が入っています。まずネックが何本もある42弦ギターの異様な形に驚きつつも、すべての弦を使って縦横に演奏するメセニーにはもっと驚きます。想像しようにもできないものは見るしかないですよね。これは一度見るとCDの印象が確実に変わります。「見たこと」は「聴くこと」にけっこう大きな影響を与えまてすよね。おもしろいですね。
というわけで、コーヒーいれてる私マスターの一生懸命な姿を見れば、さらにおいしく感じられるんじゃない? なに、逆?