2010 年最初の「マスターのこだわり」は、インナーイヤーヘッドホン「HA-FX700」に続いて、またまた新商品説明会の潜入レポートです。今回も会場は「JVC ケンウッド丸の内ショールーム」。2度目なのでちょっと気持ちに余裕もあった…かな。
まず説明会会場に入ってぐるりと見渡すと、新商品は…ない。正面右側の棚に、黒い布が被された山がある。きっとこれなんだろうな。ずいぶんもったいぶっているではありませんか。そしてお披露目。ジャーン! 黒布がめくられそこに現れたのは、黒いエンクロージャーのスピーカーと黒いアンプユニットのコンポが2セット。これが新商品「EX-BR3」と「EX-BK1」。これまでのウッドコーン搭載のオーディオシステムは、すべてチェリー材などの木目仕上げのスピーカーとシルバー仕上げのアンプユニットの組合せだったので、これはかなりのイメージチェンジだ。
商品の型番だけは聞いていたので、今回マスターは下調べをして来ていたのです(エッヘン)。ウッドコーン搭載オーディオシステムは、“その1”でも紹介した「EX-A150」を含めて5機種のラインアップがあるのですが、今回の新商品「EX-BR3」と「EX-BK1」に似た型番で「EX-AR3」と「EX-AK1」があるのですよ。で、いずれも「A」が「B」になっている。そうか「B」はブラックの「B」だったのか。でも、色違いだけでわざわざ説明会を開くのってちょっと、大げさじゃない?(なんて思ったのは、実は大きな間違いだったとすぐに反省することになるんだけど…)
説明が始まった。さまざまな図版を示しつつ、詳細に商品の説明をしてくれるのは日本ビクター(株)技術部 開発グループの今村智さんだ。今村さんには以前の取材でもお世話になりました(マスターのこだわり第3弾/音のこだわり「ウッドコーン・スピーカーの秘密」)。その時の記事を読み直していただければわかりますが、とにかく熱い人なんですよ。それにしても、ウッドコーン開発のリーダーである今村さんが直々に出てくるということは、これは何かありそうだな。
当ジャズカフェのお客様にはウッドコーン・スピーカーのことをたびたびお伝えしていますけど、かんたんにおさらいしておきますと、「ウッドコーン」とは木製のスピーカー振動板のこと。多くのスピーカーは振動板が紙製ですが、どうして木を使ったかというと、それは「スピーカーは楽器でありたい」という技術者の熱い思いから。木は楽器に使われている素材であることからもわかるように、音響的に優れた特性を持っているんです。ですからコーンを木製にすれば、よりよい音を出してくれるはず。ということから開発が始まりましたが、これは技術的にたいへん難しいことでした。今では日本ビクターの看板商品のひとつとしてすっかりおなじみになっていますが、商品化できたのは今村さん率いる日本ビクターのエンジニアたちの高い技術力と熱い情熱があったからこそのこと。
ひととおりウッドコーンの特徴が説明されたところで、いよいよ説明は新商品へ。「今回の新商品「EX-BR3/BK1」は、高い評価をいただいております既存モデル「EX-AR3/AK1」の《ブラックモデル》です。「EX-AR3/AK1」はいずれもスピーカー・エンクロージャーがチェリー材などの木目仕上げで、本体アンプ部がシルバー仕上げですが、市場ではブラックモデルを要望する声がたいへんに多く、そのご要望にお応えすべく、今回「EX-BR3/BK1」を発売することになりました」とのこと。そうか、今回はまず「黒」なんだな。でもただの黒ではなく、ピアノのような鏡面仕上げの黒。これはかっこいい。高級感ありありだ。「この仕上げのために、エンクロージャーを音響材として定評のあるMDF※に変更しました。天然材だとバフで磨きをかける際、木目の部分が硬いので仕上げに木目と同じ波ができちゃうんであきらめたんですよ。」とのこと。そういえば、ピアノやエレキギター、ウッドベースにもMDFって使われているよなぁ。でも材質が変わると当然、音が変わりますよね。「「EX-BR3」では後方に2本、「EX-BK1」では後方に2本と前方に1本、チェリー材の響棒を縦使いで新たに追加し、チェリー材エンクロージャーに近い音質にチューニングしました」とのこと。これまたシビアに追い込んで音を仕上げたんだな…。つまり、ユニットは同じでもスピーカーとしては別物というわけ。作るからには「ただ黒く塗りました」で済ませられないのですね、今村さん。黒でいくならとことん美しい黒で、でも絶対に音も手を抜かないということ。「色違い」のレベルを遥かに超えた、新たなラインアップができたというわけだ。ちなみにスピーカー裏面も鏡面仕上げ。後ろから見ても美しい。
※MDF(Medium-Density Fiberboard):中密度繊維板
木材チップを蒸煮・解繊したものに接着剤となる合成樹脂を加え板状に熱圧成型したもので、密度が0.35-0.80g/cm3のものを中密度(Medium-Density)の繊維板(Fiberboard)とよび、頭文字をとってMDFと呼ばれている。
で、本体ユニットも黒くなっている。でもカタログの「EX-AR3/AK1」と見比べてみると、面構えはまったく同じ。こちらは色を黒くした「だけ」のようだけど…なんて思ったところ、今村さんは「アンプ部は基本的には色替えだけですが…」(やっぱりそうか)、「これでずいぶん音が変わりましたので…」(え?)「かなり追い込みました」と先制攻撃。重ねて「色が変わるだけでも音は変わるんです」と念を押すように繰り返す。ああ、そうか。オーディオや楽器は、細かな部分までシビアに突き詰めたものほど、ちょっと設定を変えただけでもその影響は大きいんだよね。特に「EX-BR3/BK1」は「スピーカーとアンプの単品コンポの組合せ」ではなく、ひとつのシステムとして作られたものだから、音の入口から出口まで責任を持ってチューニングされているということなんだね。とはいえ、色だけでそんなに違うの?というのが正直なところだけど…。
「アルミ材を黒色にするには、陽極酸化処理後、染料に浸すのですが、アンプ部を黒色にしたことで、高域のヌケや上方への音の広がりがかなり変化してしまったんです」(そんなに違うんだ)「そこで改善のために、シャーシ天板のワッシャーを変えました。「EX-BR3」は前方2本は銅製で後方2本が真鍮です。一方の「EX-BK1」は全部銅製です」との説明。ワッシャーって天板を止めるネジ(ビス)と天板の間に挟まっているあのドーナツ型の薄っぺらな円盤ですよね。この材質を変えて音を変えるなんて、ホントに驚きだ。「あとシャーシアースのポイントも変えているんですよ」(え?アースなんかで音が変わるの?)「アースの落とし方ひとつで高域のヌケや音の広がりって、ずい分変化するんですよ」(…絶句…)なんと深い。そこまでやるのか…それこそ長年培われた技術なんだな。
さて、説明が全部終ったところで音出しです。まずは「EX-BK1」、続いて「EX-BR3」を正面のスタンドに載せて、試聴。うん、これはいい。どちらも小型のユニットとは思えないスケール感だ。音質はまさしく「ウッドコーン」。極めてナチュラルな響きが印象的だ。黒い鏡面仕上げは見る角度によっては背景に溶け込み、木肌が美しいウッドコーンのユニットだけが宙に浮いているよう。かっこいいね。「EX-BR3」と「EX-BK1」のカタログの上での位置づけとしては、それぞれ価格も同じスタンダードモデル「EX-AR3」、エントリーモデル「EX-AK1」の「色違い」なんだけど、実際は黒い「ニューモデル」ですね。念を押しておきますが、ただ「黒くしただけ」じゃありませんよ!。