じゃあ設備は関係ないのかといえば、もちろんそれは極めて重要なもの。いわばスタジオは、エンジニアの感性を表現する楽器のようなもの。満足のゆく音が出ない楽器ではいい演奏はできないので、ビクタースタジオはエンジニアのための最上の楽器を揃えている。機材を扱う技術は音楽家の演奏技術と同じこと。つまり「録音」はミュージシャンとエンジニアの共演ということなのだ。何でもできる環境だからこそ、どう使うかという感性が重要になってくる。
リスナーはCDを介して演奏を聴く以上、どういう音でCDに記録するかはミュージシャンにとっては大問題だ。スタジオのカーテンの開き具合いひとつで演奏の印象が大きく変わる(変えられる)となれば、スタジオとエンジニア選びは細心の注意を払って当然のこと。
村上ポンタ秀一率いるジャズ・グループ「ポンタボックス」の多くのアルバムは、ここビクタースタジオで録音されているが、村上ポンタ秀一は自伝*2の中でこう語っている。 「......優秀なエンジニアがいないと、完璧に表現できないわけ。サウンド・エンジニアが4人目のメンバーと言っても過言じゃないね。むしろ俺たち3人より格上かもしれない。レコーディングの時だって、ビクタースタジオの高田英男さんのほうがメンバーよりえらいんだ。」
家に帰って久しぶりに『ポンタボックス』を聴いた。曲想に合わせてセッティングを変えているドラムスのサウンドの違いの聴かせ方はエンジニアの領域だ。なるほど、こういうことなのね。これがちゃんと出なければ、ミュージシャンの苦労は無駄になり、演奏の魅力も半減だ。
CD聴く時にチェックするネタがまた増えた。スタジオのことを考えながら愛聴盤をもう一巡させると、また楽しめるなあと思いつつ。おっこれは「K2」だ、という発見もあったり。
<続く>
次回は「ヴォーカル・スタジオとマスタリング・スタジオ」です。
*1:スタジオ機材の詳細はこちらで知ることができます。
http://www.jvcmusic.co.jp/studio/index.html
*2:「自暴自伝」村上ポンタ秀一(文芸春秋・刊)
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