音のこだわり 「マスターのスタジオ見学記」

第2回 「レコーディング・スタジオで何が起こっているか?」


第2回「レコーディング・スタジオでは何が起こっているか」
マスターのお話スタジオ見学記
 
前回はスタジオ全体についてお伝えしたが、2回目はその中心となる「録音スタジオ」について。
みなさんは録音スタジオでいちばん「大事なもの」は何だと思います? 
マイクやレコーダーなどの機材、広さや構造、というのが一般的なイメージだろうか。
演奏家なら雰囲気、ピアニストなら設置してあるピアノという答えが返ってくるかもしれない。
プロデューサーなら使用料金というかも。私マスターが思いついたのはそんなところ。
でもスタジオ見学後は考えが変わった。

 
ビクタースタジオ 前回はスタジオ全体についてお伝えしたが、2回目はその中心となる「録音スタジオ」について。
みなさんは録音スタジオでいちばん「大事なもの」は何だと思います?
マイクやレコーダーなどの機材、広さや構造、というのが一般的なイメージだろうか。演奏家なら雰囲気、ピアニストなら設置してあるピアノという答えが返ってくるかもしれない。
プロデューサーなら使用料金というかも。私マスターが思いついたのはそんなところ。

でもスタジオ見学後は考えが変わった。
響きをコントロールする
まず、スタジオとは何をしているところなのかをご説明いただいた。
ビクタースタジオの業務は、大きく3つに分けられる。
6つのスタジオ ビクタースタジオの特徴は、6つあるスタジオすべてが違うこと。しかも「まったく」違う。まずご案内いただいたのは「401スタジオ」。メインエリアは高さ7メートルの高い天井、木の壁が美しい広い空間だ。天井からは3点吊りでマイクをセッティングでき、楽器の響きを生かした音を収録できる。また可動式の衝立が壁面にあり、動かすと部屋の響きが変わる。
ライブスペース 驚いたのはピアノ・ブースで、ピアノ1台(スタインウェイのフル・コンD)がきっちり収まっているという広さだが、なんと天井高が6メートルで中の声がよく響く。その天井にもマイクがある。さらに驚きは、メインエリアとつながるライヴ・ブースというスペース。ここはメインエリアとは対照的なコンクリートと鉛の部屋。メインエリアから一歩入り込んだ瞬間に靴音の響きがまるで変わった。壁面の大きなカーテンを動かすと響き方がまた大きく変わる。
401スタジオ このように、401スタジオの特徴は広い響きとそのコントロール。説明していただいた秋元氏の声も、場所によってまるで違う印象になる。楽器の音はもっと変わるんだろうな。ここはそれまで持っていた録音スタジオのイメージからはかなり遠い。ここでもジャズの録音は行なわれるが、こんな大きな空間とジャズのイメージはなかなか結びつかないというのが正直なところ。豪華でキレイ過ぎ(?)。  ちなみにここは「サザン・スタジオ」とも呼ばれるそうで、「サザン」のお気に入りのスタジオだそうだ。「サザン」はビクターでお馴染みのあの"サザン・オールスターズ"のこと。数々のヒット・アルバムはここで作られてきた。
301スタジオ 続いては301スタジオ。こちらも広いメインエリア。天井は401より若干低く、響きも抑えめ。ビッグ・バンドなど大編成の録音に適しているという。10のブース(部屋)があり、大きな窓でメインエリアとコンタクトがとれるようになっている。これはすごくジャズのイメージ。よくCDの写真で見るような、いかにもスタジオらしいスタジオの感じだ。ピアノ・ブースの仕様は401とはかなり異なり天井も低い。ピアノも同じだが響き方はまるで違う。こちらはずっと響きが少ない。 雰囲気、音の響き、構造がまるで違う2つのスタジオ。同じ人が同じ演奏をしたとしても、録音された音はまるで違うものになることはもちろん、演奏も違ってくるだろうことも容易に想像できる。見学では楽器の音は聴いていないが、話をする声、靴音の響きだけでも全然違う。質問する声も401では小声になりがちだし、301では大きめになってしまうぐらい部屋の違いは行動にも影響する。
スタジオはエンジニアの楽器
ビクタースタジオ長の高田英男氏と、エンジニアグループ長の秋元秀之氏 さて、ここで最初にもどってスタジオの「大事なこと」をもう一度考えてみる。機材*1はもちろん、ピアノだって最高最上、響きのコントロールも自由自在。そこにすばらしい演奏があれば結果が悪いはずがない、となりそうだがそうではない。
ミュージシャンが持つイメージの100パーセントを音として記録することが最上の録音とするなら、100パーセントにどこまで近づけられるかが録音スタジオの勝負どころ。もうおわかりですね。スタジオでもっとも大事なのは、部屋でも機材でもなく、それをコントロールする「人」ということ。前回の高田氏のお話が、スタジオを見てますますよくわかったというところ。
ビクタースタジオ じゃあ設備は関係ないのかといえば、もちろんそれは極めて重要なもの。いわばスタジオは、エンジニアの感性を表現する楽器のようなもの。満足のゆく音が出ない楽器ではいい演奏はできないので、ビクタースタジオはエンジニアのための最上の楽器を揃えている。機材を扱う技術は音楽家の演奏技術と同じこと。つまり「録音」はミュージシャンとエンジニアの共演ということなのだ。何でもできる環境だからこそ、どう使うかという感性が重要になってくる。
リスナーはCDを介して演奏を聴く以上、どういう音でCDに記録するかはミュージシャンにとっては大問題だ。スタジオのカーテンの開き具合いひとつで演奏の印象が大きく変わる(変えられる)となれば、スタジオとエンジニア選びは細心の注意を払って当然のこと。
村上ポンタ秀一率いるジャズ・グループ「ポンタボックス」の多くのアルバムは、ここビクタースタジオで録音されているが、村上ポンタ秀一は自伝*2の中でこう語っている。 「......優秀なエンジニアがいないと、完璧に表現できないわけ。サウンド・エンジニアが4人目のメンバーと言っても過言じゃないね。むしろ俺たち3人より格上かもしれない。レコーディングの時だって、ビクタースタジオの高田英男さんのほうがメンバーよりえらいんだ。」
家に帰って久しぶりに『ポンタボックス』を聴いた。曲想に合わせてセッティングを変えているドラムスのサウンドの違いの聴かせ方はエンジニアの領域だ。なるほど、こういうことなのね。これがちゃんと出なければ、ミュージシャンの苦労は無駄になり、演奏の魅力も半減だ。
CD聴く時にチェックするネタがまた増えた。スタジオのことを考えながら愛聴盤をもう一巡させると、また楽しめるなあと思いつつ。おっこれは「K2」だ、という発見もあったり。

<続く>
次回は「ヴォーカル・スタジオとマスタリング・スタジオ」です。

*1:スタジオ機材の詳細はこちらで知ることができます。
http://www.jvcmusic.co.jp/studio/index.html
*2:「自暴自伝」村上ポンタ秀一(文芸春秋・刊)

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