音のこだわり 「マスターのスタジオ見学記」

第4回 「いい音楽をおいしくいただくために」


第4回「いい音楽をおいしくいただくために」

 
マスタリング・スタジオで現場見学は終わり。その後は試聴室でK2HD CDとCD、さらにDVD-AUDIOの聴き比べ。 再生スピーカーは、大変「高価なスタジオスピーカー」となんと私のお気に入りの「ウッドコーン」。とにかく違いがはっきりとわかって感動した。アンプやプレーヤーのせいなのかK2HD-CDのせいなのかわからないが、スタジオモニターは勿論、ウッドコーンでも音が違う! さまざまな「こだわり」の結果がこうした感動になっているのだな、と思いつつ、見学コースの最後は高田氏、秋元氏への質問コーナーだ。 ふだん「音」について疑問に思っていたこともついでに聞いてしまおう。 以下、QアンドA。おふたりのお話を合わせてまとめた。
ソフトとハードのコラボレーション
Q

一般リスナー宅とスタジオでは再生装置が違うので、同じCDを聴いても同じ音にはならないわけですが、作り手としてはリスナーにどういうふうに聴かれることを想定していますか。また、どのように聴いてほしいと思っていますか。

A音作りのプロセスではマスタリングまでがクリエイターが関わる音楽制作部門です。アーティストとともに音楽を作ってきたその最後の作業がマスタリングで、ここでマスター音源が完成します。
スタジオの仕事は、マスターを作ったところで通常は終わりとされていますが、私達はこの先も非常に大切だと思っています。リスナーはCDやさまざまなメディアで聴くことになりますが、そこに込められた本来の音や音楽がちゃんと伝わっているのかというのは、たいへん気になるところです。
リスナーが、たとえばこのCDのピアノの音はこのシステムで聴くのがいいとか、これで聴くのは良くないというのはいいのです。それはリスナーの方々の好みですから。
一方、作り手側としてはあるこだわりで創ったものが、なるべくそのまま伝わって欲しいとの想いもあります。伝えたいのは音楽ですが、それは音という形で表現されます。ですから音の違いによって音楽の伝わり方が大きくかわるのです。例えば、あえてハイファイにしていない音楽を無理矢理ハイファイにして聴かれてしまうのは、作り手としては本意ではないのです。
このようにリスナーまで作り手の想いを伝えるためには、最終的な再生装置であるハードウェアが非常に重要なポイントになります。そのためにビクターグループでは音楽制作現場のビクターエンターテインメントのソフト制作者とビクター・JVCのハードウェア開発者が積極的にコラボレートしています。
ケーブル その第一歩はお互いの基準づくりから始りました。音を判断する環境についても一般リスナーとスタジオのシステムが全く異なっているのと同様に、ソフト側とハード側のお互いの基準や認識は必ずしも同じではありません。ハード側からすればスタジオでどんな音が出ているかは正確にはわかっていなかったのです。そこで、ハードウェアの開発者にスタジオに来てもらってマスターテープの音を何度も聴いてもらったり、機材やセッティングを変えての録音の実験を繰り返したり、ビクターのスピーカーとスタジオのモニターを聴き比べたりといった多くの共同作業から、ひとつの目安、お互いの共通認識を作り出していきました。その確認のために特別に社内用の「音の基準CD」も作ったりしました。これによりソフトからハードへ、つまりアーティストが作った音楽をリスナーの耳の入り口まで「こだわって」届けるというひとつの流れがつくれたのです。
Q

各スタジオには私もお気に入りの「ウッドコーン・スピーカー」がありましたが、それは何故ですか?

Aレコーディングやマスタリングではスタジオ・モニターの他に民生用スピーカーでも音のチェックをします。場合によっては民生機器でのチェックの方を重要視するケースもあります。しかしご存知の様に民生用システムは各メーカーや機種で音がバラバラです。ですからそれぞれのセッションで自分たちのこだわりが少しでも伝わると思われる機種を使っていて、スタジオや業界での統一性はありませんでした。同じビクターグループだからという会社の指示でも音楽制作現場では音がよくなければ使わないですし、エンジニアも自信がなければアーティストにこの音を聴けとは言えません。結構シビアな環境なんです。
そんな状況を大きく変えたのがビクターの「ウッドコーン・スピーカー」です。込められたこだわりを届けられるようにつくられた「ウッドコーン」は、導入と同時に多くのアーティストからも支持され、今では全部のスタジオにあります。ビクタースタジオの標準機です。ですからウッドコーンのスピーカーがあれば、ビクタースタジオで作り手が最終確認した音やこだわりをご自宅でも聴いていただけるのです。
Q

最近ではCDだけでなく、MP3や配信で音楽を楽しむ人も増えていますが、「こだわりの音」の作り手としてどうお考えですか。

A音楽をより手軽に楽しむ手段が増えているのはとても良い事だと思います。しかしMP3や配信はCDと比べると絶対的な情報量が大幅に少なくなっています。だからこれまでは音の劣化はしょうがないと思われてきました。しかし、限られた条件の中でも出来る限りいい音で聴いてほしい、その方法はないかと開発したのが「net K2」という技術です。たとえば料理に例えると、出来上がったそのままを食べればいちばんおいしいけれど、冷凍食品にする場合もあるわけです。その時に、ただ冷凍加工していたのが今までの考え方で、それをなるべく出来上がりに近くおいしく食べられるように工夫しながら加工したのが「net K2」です。

なるほど、CDの聴き方はもちろん好きずきだが、入っているはずの音や音楽が出ているかどうかはそれ以前の問題だ。私のオーディオはちゃんと聴こえているのだろうか。うーん。好きな音は出ているが・・・。
それはさておき、今回の見学で感じた音楽の作り方・聴き方はたしかに料理のようだ。音楽を創る上での様々な素材をエンジニアが料理してマスター音源をつくり、それをハードウェアというお店でリスナーが食べる。かつては店内でのみと料理の食べ方は限られていたが、今ではテイクアウトや冷凍などさまざまな方法がある。すこしでも美味しく食べてもらうために作られ方と出来上がりの料理の味を再確認し、食べ方にあわせてさらによさを引き出す方法も身につけたというわけだ。 では、今日も「こだわりの一品」をおいしくいただきましょう。
<以上>
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