吸音材は2種類。黒くて厚いの粗毛フェルトと白くて薄いウールという対照的な2枚だ。「これは重要ですよ。ちょっといいですかぁ-」と高田講師。「マニュアルどおりに切って入れると余ります。増やしたい人は増やしてください」。たしかにずいぶん余る。「白の吸音材を増やすと中高音が落ち着いてきます。好みで調整してください」。これはマニュアルには書いてない重要情報だ。しかもちゃんと吸音材の量が違う試聴用のスピーカーが用意されていて、実際に聴かせてくれた。これは違う。明らかに違う。そういえば、「EX-A3開発秘話」取材で、音の仕上げは吸音材とあった。
EX-A3の吸音材はチェリー材のチップだったね。後で入れ替え実験もおもしろそうだけど、まあ、とりあえずマニュアルどおりにやってみようとボンドで貼り込もうとしたその時。ひらめきましたよ、マスターは。「分量変えると音が変わるのはわかった。じゃあ外すとどんな音なのか?」。これは市販品じゃ試せない。せっかくだから実験だぁーと(それと少々のウケ狙いもあって)吸音材は入れないで、何食わぬ顔で最後の工程であるユニット取り付けに移る。ユニットを傷つけないように気をつけながら六画棒レンチでゆっくりとネジを締める。
これにてマスターズ・スペシャル1号(MS-1)ひとまず完成! ふうー。この達成感と充実感いいなあ。午後の作業は難しいところは特になかったが、吸音材のさじ加減はみなさんけっこう迷っていたみたい。あとで調整する楽しみ(めんどうかも?)があるわけだけど、最初に出る音が好みに合っていればそれにこしたことはない。お隣の人の完成品を外側からちょっと叩かせてもらう。当然ながらこちらとは明らかに響きが違う。これはおもしろくなりそうだ。早く音を聴きたい。
さて、部屋を移動していよいよ試聴会。なんとごていねいなことに、スタッフの方がどのスピーカーが誰のもかわからないように番号を付けて持って来てくれた。どれだろう。マスターズ・スペシャル1号(MS-1)は確か右側に小さな節ふたつがあったはずだが・・・、わからない。
鳴らすアンプはトライパス社のデジタルアンプ。手のひらに乗るぐらいの小さなサイズで出力も小さいものだ。ソースは女性ヴォーカル、ジェニファー・ウォーンズのCD。高田講師の「だいたい1本ぐらいは音が出ないのがあるんですよ」の言葉に、一同に緊張が走る。
「では1番いきます」さて、音は...。
ああ、いいじゃないか(誰のスピーカーかわからないけど)。マスターは以前の取材でウッドコーンの音を聴いていたけど、ほとんどの参加者は初めてのようで、みな驚きを隠せない様子。ゆたかな音の広がりとナチュラルな響きはまさにウッドコーンのイメージそのものだ。あの小出力アンプでこれだけの音圧ということは能率もかなりよいと見た。この吸音材は多めかな?(まさかマスターのMS-1じゃないよな)。とりあえず、これを基準ということで成績表には3を付けておこう。
そして2台目。音はやっぱり違った。傾向としては当然ながら同じなんだけど音の余韻に違いが感じられる。さっきのよりサ行の発音がなめらかに聞こえる。4点。
各2分弱の試聴がどんどん進んでいくが、中盤はさすがに違いを聞き分けるのが難しくなってくる。品質にバラツキがなく、ちゃんと作れば基本的なレベルは保証されるという証明だ。とはいえ、音場感、音圧、広がりなど好みとして差が出るレベルの違いはある。「そろそろですかね、音が出ないのは」との一言にドキドキする。「なんか、吸音材を入れなかったという大胆な人もいるようですよ(苦笑)」。ハハハ、バレてる。そうこうしているうちに1本の不調もなく全9本の試聴は終わり。ということはマスターのMS-1も特別ヘンな音は出さなかったということだ。
ハンドメイド・スピーカーには魂が宿る(?!)
そして投票による本日のベスト・スピーカーの選出。ひとり2票の多数決だ。結果は全スピーカーに票が入るレベルの高い争いとなった。投票後、それぞれの製作者が明かされて、どよめきがおこる。マスターのMS-1にもちゃんと票が入っているではないか。しかも自分でも入れている。聞けば両隣のふたりも自分自身のに投票していたという。これは偶然なのか。いや、スピーカーに込められた製作者の魂が音となって本人を呼んだのだ(なんてね)。この日は東京のIさんがトップ。賞状と記念品のニッパー犬をもらってうれしそう。
最後は塗装の説明が少々。もう下塗りは出来ているから、サンドペーパーで磨いてオイルステインを塗り込めばピカピカかつキレイに木目が出るという。見本を触ってみるが、ここまでできればとても手作りキットには思えない。ここからの作業こそ相当性格が出そうだな。
ここでひとまずお開き。この後希望者は会場のニッパーズギンザ内に用意された好きなアンプで試聴できるようになっている。さっそくマスターはスピーカー抱えて地下の試聴室へ。マッキントッシュとフライングモール(小型デジタル)という正反対のアンプが用意されている。で、とりあえずフライングモールにつないで鳴らしてみた。今度のソースはピアノ・トリオ、もう何百回も聴いてきたビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』だ。
ガーン(ショック!)。シンバルがシャリシャリしてバランスがなんかヘン。ピアノの響きもイマイチ。さっきのヴォーカルは悪くなかったのに、この違いは何だ!? これがマスターのMS-1の真の音なのか・・・。そうだよね、あまりに設計を無視しているので当然だろうな。さっきはきっといろんな偶然が重なったんだ。アラが見えにくいようなソースを選んでくれていたのかも。いずれにしてもこれではだめだ。マッキンで聴き直すまでもない。
さっそく作業室に戻ってマニュアルどおりに吸音材を仕込み直し、数十分後ふたたび試聴。これだよ、これ。ああ、ウッドコーン。やはり基本は守らなければ。ほっと一息。とりあえず安心して、箱に入れて持ち帰る。ウキウキ。
構想と妄想がどんどん広がる「永遠の未完成モデル」
さて、ここから楽しみの第2ステージの始まり。音のチューニングと塗装なんだけど、じっくり取り組みたいと思いつつ、なかなか時間がとれない。塗装はコレで、吸音材はアレで・・・と、構想はあるんだけど、完成はいつの日か。まあ、その日まで楽しみが続くんだから、急ぐこともあるまい。「世界でただひとつのウッドコーン・永遠の未完成モデル」もキットならではの楽しみさ。これぞまさに「大人のこだわり」だな。コーヒーいれて、未完成の音(これでも十分いい音だけどね)を聴きながらさらに構想をふくらませるか。
<マスターズ・スペシャルMS-1>
完成予想イメージ。
コンセプトは「炎のビ・バップ」。ただ赤いだけですが(笑)。
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当選者(ニックネーム:shigeyoshiさん)の 体験レポート