今年の夏も暑かったね。
ニューポートで行われたJVC JAZZ FESITVALも暑かったのかな?
なんて思っていると、去年のJVC JAZZ FESITIVALに参加したbobby2さんが、「今年もJVC JAZZ FESTIVALを見てきたよ!」とビクタービデオカメラ「Everio」で撮影したビデオと写真を見せてくれた。
去年の様子はこちらを見てね。
JVC Jazz Fesitval @ Newport についに行ってきた!
今年もJVC JAZZ FESTIVALを見るぞ、と意気込んでやってきましたニューポート。
8月7日木曜日にワシントンを経由し、プロビデンス空港に降り立った。日本の酷暑がウソのような涼しい陽気、というか今にもひと雨来そうなどんよりとした空でどちらかと言えば肌寒い。去年のニューポートの猛暑が頭に残っていたので、Tシャツしか持ってこなかったが、これではあまりに寒すぎる。少し体を動かすか、ということで今日はまずニューポートめぐりに出ることにする。もちろんビクターのビデオカメラ「Everio」であちこち撮影してきました。
ニューポートの街中では19世紀のアメリカを再現したような瀟洒な木造家屋がピンク、グリーン、ブルー、クリームイエローなどのカラフルなペイントで旅人を迎えてくれる。まるで西部劇のような街にこれまた絵に描いたようなカラフルでクラシックな車が無造作に停まっている。住人すべてが街のコンセプトを理解していないとこうはきれいに風景を維持できないだろう。
海岸べりではこれまた港町のいいムードが漂う。古い漁船と最新式超リッチなクルーザーが共存する。さすが1800年代に大成功した大金持ちたちが集った避暑地だけのことはある。今でも品格のある街だ。
港から少し離れた海岸ではカラフルなカヤックとウエットスーツに身をつつんだたくさんの人々が緊張した面持ちで海を見つめていた。何をやっているのかと聴いてみると、これからスピア(銛打ち)フィッシング・チャンピオンシップが始まる、とのこと。スタート合図とともにたくさんのカヤックが沖目指して漕ぎ出されていった。出場者たちを見送りながら我々は街へもどる。今年も初日の夜はニューポートの定番、クラムチャウダーを食すことにしよう。
さて一夜明けて、8月8日は昨年と同じくコンサート前夜イベントをテニスコート特設会場で見ることにする。去年と同様にコンサート前日は昼から雨模様となったが、不思議なことに今年も音楽が始まると雨はぴたりとやんだ。今夜は新進女性歌手レディーシとイケメントランペッター、クリス・ボッティが前夜祭を盛り上げる。
ニューオルリンズ生まれの新進女性ソウル・ファンク系ボーカリストである。まだCDも少なく、日本ではまったくなじみがないが、脅威の声量とテクニックで見事な歌を聞かせた。基本的にソウル、ファンクのリズムをベースにしたスムーズジャズ、といったコンセプトだが、そのボーカルには時折ジャズの伝統を感じさせる。ゴスペルとジャズの両方のテクニックを持っている感じだ。と思って聴いていたら、ひとりでスキャットをし始めた。伴奏なしで完全に一人で歌っている。「ストレート・ノー・チェイサー」。多くのジャズマンが取り上げるジャズピアノの重鎮(故人)セロニアス・モンク作のブルースだ。すばらしいテクニックのスキャット。フレーズもよどみなく、声量、音域ともになかなか聴かせる。最後までひとりで歌いきった。これはかなりの逸材だと感じる。しかしながらきっと器用すぎるので売り込み方が定まらないんだろうなー。ぜひこれから活躍してほしいと思う。
言わずと知れたイケメントランペッターの登場に場内の女性たちが大騒ぎだ。ラッパのケニーGといったところか?ちょっと違いますか。一曲目はいきなりフュージョン的な16ビートで入ってきたと思ったらいきなりブレイク、静かな中からクリスの美しいトランペットボイスがメロディを奏で始めた。これは「When I Fall in Love」。美しいジャズバラードのスタンダードだ。イントロとはうって変わって一転バラード調で場内をうっとりさせている。美しいテーマが終わったあとソロに入り、またしてもアップテンポに。楽しいアレンジでスタンダードをクリス色に塗り替えた。その後もマイルス・ディビスのアルバム「カインド・オブ・ブルー」で有名な「フラメンコ・スケッチ」を彼流のロマンチシズムで生き返らせたり、彼が学生時代にフランク・シナトラのビッグバンドで初めてトランペットの仕事をしたときの苦い思い出をジョークたっぷりに語りながら紹介したシナトラの「ワン・フォー・マイ・ベイビー」など、有名な曲をうまく取り入れた楽しいステージとなった。そのほか、客席におりて演奏し、前に躍り出た酔っ払いのおじさんと握手、女性ふたりとキス、というサービスぶり。最後は熱狂した観客がステージ前へ詰め掛け、ダンス大会とあいなった。
前夜祭の心地よいノリをひきずりながらホテルに帰る。空は星でいっぱいだ。さて!いよいよ明日はJVC JAZZ FESTIVAL@ニューポート、本番である。
11時半の開演を前にして、10時の開場時間には入り口はパラソルや簡易椅子を手にする人でいっぱいだ。開場と同時にベストポジョンに人々と一緒にひた走る。
それではジャズをじっくりと堪能することにしよう。
デイブ・ホランドと言えば60年代、後期マイルス・バンドでアナーキーなベースを弾き、ロックフェスティバルの観客の度肝を抜いていたことでも有名だが、その後、主流ジャズの王道を堂々と歩く重鎮となった。チック・コリア、ハービー・ハンコックとの共演も長く、パット・メセニーも一目置く存在だ。しかしながらそのベースは相変わらずアグレッシブで、このバンドでも、若手クリス・ポッター(Ts)やキューバの超絶ピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバ、エリック・ハーランド(Ds)らを率いてぶっ飛びジャズを聴かせる。クリスの艶やかなサックス、ゴンサロの力強いピアノ、エリックの緩急のついたドラムをデイブのベースが下からしっかりと支えている。非常に安定感のある、かつ緊密な演奏であった。
ついにサックス界の東の生ける巨匠登場。西の巨匠はもちろんソニーロリンズ。(そちらは最終日のオオトリ)もう10年以上のメンバーである、ブライアン・ブレイド(ds)、ダニーロ・ペレス(p)、ジョン・パティトゥッチ(b)を引き連れて、泰然自若、自由自在な演奏を聴かせた。マイルス・バンド時代からそのユニークで空気に漂うようなそのサックスはジャズ界の宝だが、その音は今日も変わっていない。ステージに現れ、マイクに向かってサックスを吹くかと思いきや、まず口笛!!を吹く。その口笛にあわせてピアノが、ベースが音をつけ始めた。彼の曲である「アウンサン・スーチー」が始まる、なんとも自由な雰囲気が流れる。なんとその後はノンストップで1時間。さまざまな世界を表現しながら4人は自由に会話していく。途中でマイルス時代の曲、「プリンス・オブ・ダークネス」のテーマなど織り込みながら、あとはテーマメロディなのかアドリブなのかよくわからない。これが彼の行き着いたジャズなのだろう。魔法のような1時間を観客全員が味わった。
サブ会場のパビリオンステージに行ってみると、ウエイン・ショーターバンドのドラマーであるブライアン・ブレイドが自分のバンドで出ていた。緩急自在でしなやかなドラムとして定評あるブライアンだが、自分のバンド、自分の曲でも、そのしなやかさがさらに前面に現れている。まるでヨーロッパ映画のような色彩感のあるサウンドはドラマーがリーダーのバンドとは思えないほどだ。
ステージ袖ではデイブ・ホランド夫妻が熱心に彼のドラムに聴き入っていた。(写真)
出ました。今年の大目玉、ソウルの女王アレサはリムジンに乗って登場。総勢20人のバンドを引き連れて、ゴージャスなステージを展開した。でかい!アレサが前に立つとバックバンドが見えない。(んなことはない)磐石のリズム、これがソウルだ、というグルーブで観客を一気にヒートアップさせる。スライ&ファミリーストーンで有名な「アイ・ウォント・テイク・ユー・ハイヤー」、キャロル・キング作曲、アレサ自身もカバーをヒットさせた「ナチュラル・ウーマン」など、ソウルフルな曲が続く。壮大なアメリカポップスの歴史を感じさせる貫禄あるステージで、ここがジャズフェスの会場であることをすっかり忘れさせられた。
今日は中型のパビリオンステージからスタートしよう。最初のバンドはみんな若い。リーダーのトランペッター、マークラップ率いるカルテットだ。ニューオルリンズスタイルのファンクをかます。全員若手ながらかなりのテクニシャンで、お互いがお互いを鼓舞しながらどんどん盛り上がる。マークのラッパも感性するどく、的を得たフレーズが心地よい。盛り上がりが最高潮を迎えたという所で一転神秘的な和音が会場を包む。マークはトランペットを置き、アボリジニの民俗楽器「ティジュリドゥ」を構えた。「ブオーーーーン」と地響きのような音が和音と混じる。この音世界はなかなかすごい。会場もどよめく。ファンクとアボリジニの融合。彼はかなりのインテリ派だぞ。
もっとも小さいキャパ100人ぐらいの会場、ウォーターサイド・ステージを覗くと長髪のおじさんの生ギターと学生みたいなお嬢さんウッドベースが、尋常じゃなく白熱した演奏を行っている。全員腕も折れよとばかりのかき鳴らしだ。上下する腕が速くて見えない。オッサン、血管切れるんじゃないか、と思われるほどの大熱演に会場もヤンヤ。そしてオッサン、ソロを見事やり遂げ手を高々と上げて聴衆にアピール。終わりのテーマで曲は「テイク5」だったことがわかる。曲がジャン!!と終わると、客席は全員スタンディング・オベイション。満足そうなオッサンだった。
こちらもウォーター・サイドステージ。ジェイ・フェルプス(tp)、ラザニエル・フェイシー (as)らのイギリスから来たクインテットだ。これは往年のブッカー・リトルとエリック・ドルフィーのクインテットの雰囲気を狙っているな・・・理知的で難しい曲をやる。トリッキーな変拍子が客のノリを阻む。ちょっとカッコつけすぎ?ジャズ優等生タイプ?とちょっと斜めに聴いていたら、アルトのラザニエルのソロは見事に構成されたすばらしいソロ。うーむ、まだまだジャズ界は逸材を生み続けている・・・。
1991年に行われたジャズ界の登竜門、モンク・コンペティション、サックス部門で、ジョシュア・レッドマン(1位)、エリック・アレキサンダー(2位)とともに杯を争ったクリス・ポッター(3位)、それ以来ずっとその二人の後塵を拝してきたが、今年はようやく当たり年。ニューポートではハービー・ハンコックのバンドを含む5バンドで登場。休む暇もない。サックス片手に会場を走り回っている。これは彼のリーダー・バンド。その艶やがあり伸びやかな彼のテナーサックスの音はとても紳士的で優しい。しかし繰り出されるフレーズはジャズの歴史をすべて踏み越え、オリジナリティを存分に加えたアグレッシブなものだ。曲もとてもアイデアに満ち溢れており、時に美しく、時に攻撃的で飽きさせない。このバンドはもっとじっくり聴き込みたい、と思った。
アルゼンチン出身かつジャズ大学の名門バークリー音楽院卒業ということで非常にユニークなスタイルをものにしているピアニストだ。今回はビッグバンドを率いての登場。アルゼンチンの伝統を生かして、ということなのか、物悲しい神秘的なハーモニーを奏でるビッグバンドだ。その上をギレルモのビアノが泳いでいく。編成は管楽器主体の通常のビッグバンド形態なのだが、出てくる音はクラシックのような、弦楽器のような静かな音。涼しげで、ギンギラギンの太陽の下にいるとは思えないような癒される音であった。
さて、今度はフェスティバルにふさわしいお祭り男の登場。まるで70年代を彷彿とさせるギンギンのソウルを聴かせる。この手はやるぞ、と予想していたらやはり会場へ飛び降りた。広い会場を歌いながら縦横無尽に歩き回る。客を捕まえては歌いながら向かい合う。しかし客もさるものアメリカ人。アンソニーへの絡み方がさすがである。客のひとりひとりに振付師がついているかのようなサマになり方。日本人ではこうはいかない。
いつの間にかジャズ界の大番頭になった感のあるハービー・ハンコックの登場だ。今回はビニー・カリウタ(ds)、デイヴ・ホランド(b)、リオーネル・ルエケ(g)、クリス・ポッター(ts)の特別編成によるバンドでおなじみのレパートリーを演奏した。まず1曲目、ビニーのタイトなドラムが会場を揺るがす。そこにハービーのシンセが絡んでくる。1973年のアルバム「ヘッドハンターズ」から「アクチュアル・プルーフ」だ。ファンキーなビートながら、単純に足を踏ませない複雑なグルーブでさすがハービー年老いてもなお攻撃的だ。おなじみの、時にウネウネと這いずり回り、時にガンガンと飛び回る変幻自在のソロでバンドを煽りまくる。ビニーもそれに応える。クリスのサックスソロも負けじと攻撃的。バンド全体で高みに上っていく感じだ。その後の曲もハービーファンにはおなじみの「カンタロープ・アイランド」「カメレオン」と続き、ハービーがショルダー・キーボードを持ってステージの前に踊りでるや観客の興奮は極まった。しかし名手デイブ・ホランドに延々「カメレオン」の2小節のベースラインを弾かせているのも、なにかもったいない、と感じたのは私だけだろうか・・・。
さてジャズサックス界の西の巨匠登場。(東西に理由はありません)80歳ですって。
でも80とは思えないオシャレな姿。白髪のアフロヘアーに白い縁取りのサングラス。黒いシャツとパンツに真っ白なジャケット。そん所そこらの若造には着こなせません。
おもむろにテナーサックスを吹き出す。おおーーっとすごい迫力。ひと吹きで前のハービーバンドを吹き飛ばす。さすが巨匠。昨年出したCDからの選曲と往年のヒット曲を混ぜてノンストップで吹きまくる。足元はヨロヨロしているが、サックスの音は実にパワフル。そしてタフ。延々吹き続けている。しかし観客を飽きさせない。それは彼のサックスはアドリブというより歌だからだ。テーマのメロディを噛んで含むように、繰り返しながら発展させていく。とても説得力があり、音に愛がある。こんな境地に達するのに人間はどのくらい人生経験をつまないといけないのだろう。
気がつくとステージ脇にハービーの姿が。ニコニコしながら何かICレコーダーのようなもので録音しているぞ?クリス・ポッターもステージ脇から覗いている。呆然自失な表情でじっと巨匠を見つめている。どんな若手テクニシャンでもこの巨匠のとめどもない歌には逆立ちしてもかなわない。ジャズ界の最後の宝、長生きしてください。
ロリンズのサックスですっかり幸せになってしまった今年もニューポートの夕陽とともにお別れである。
今年55年を迎えるというこのジャズフェス、ロリンズみたいにいつまでも元気で続くといいね。