「聴く」ことよりも「感じる」こと
~カーメン・マクレエ「モア・ザン・ユー・ノウ」ほか
今回はハイレゾ試聴記の最終回。ここまでハイレゾとCDで聴く音は何が違うのかを伝えてきたわけですが、いちばんの違いは何か。まず、CDでは聴こえなかった音が聴こえるであろうという理論上の可能性を期待していたわけですが、それは確かにある。でもいろいろ聴いてわかったのは、ハイレゾの面白さは実はそこではないのではないか、ということ。これまで読んできていただいた方は、なんとなく感じていたと思いますが、いちばん伝えたかったのは「場の空気」の違い。じゃあその「場の空気」って何?ということなんですが、演奏者と同じ場所に居るという感じが濃厚なのです。実際に目の前の演奏を聴くときのような、一歩乗り出す感じ。ハイレゾにはそれを感じるんですね。可聴範囲外の音が入っているから?そうかもしれない。CDでは再生しきれなかった細かな微小な音が聴こえるから?それもそうかもしれない。いずれにしても音には「感覚」をゆさぶるいろんな情報が入っているということなんですね。音質は音楽鑑賞のとても重要な要素だけれど、いちばん大事なのはどう「感じる」かというところであることは音楽ファンならよくわかっているはず。
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飲みながら聴いていられない
~カーメン・マクレエ「モア・ザン・ユー・ノウ」
カーメン・マクレエ『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』
ファイル形式:WAV 96kHz/24bit
今回はライヴ音源を紹介しましょう。
まずは、カーメン・マクレエのピアノ弾き語り。アルバム『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』(96kHz/24bit)より。マクレエの弾き語りは珍しいので、それだけでも内容としては聴きどころ十分なんだけど、最初の一音からハッとした。臨場感がすごいなんて書くと平凡なんだけど、それは例えばピアノは店の奥の方にあって…というような空間の再現じゃなくて、存在感というか、実在感というようなもの。最初の一音から、弾き語るカーメンがそこにいる、そのピアノのまん前に自分が座っているという「場」を感じることができるんだな。
ジャズの場合、ライヴ盤といってもクラシックのように2本のマイクでステレオ空間を生かして録音するなんてことはほとんどない。この録音もたぶん歌用にマイクが1本、ピアノに2本、空間用に数本立ててそれをミックスするという、ほとんどスタジオと同様の方法だと思われます。ライヴという演奏内容をまず重視していて、ことさらジャズ・クラブ的な空間を生かそうとしているわけではないのは聴けばわかる。でもハイレゾだと違うんだな。そこにはちゃんと、広くはないジャズ・クラブの「場」を感じる。そういう「気配」があるんですね。そうそう、この曲では誰かのグラスがずっとカチャカチャ音を立てているのが聞こえる。CDならこれで「臨場感」をより感じられたんだろうけど、ハイレゾではむしろジャマ。飲んでる場合じゃないよ、と言いたいくらい引き込まれちゃうんだから。きっと現場よりいい音なんだろうな。
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お客さんも楽しく盛り上がっている
~アート・ペッパー「トゥルー・ブルース」
アート・ペッパー
『ランドスケープ~アート・ペッパー・ライヴ・イン・トウキョウ '79』
ファイル形式:WAV 96kHz/24bit
もう1曲はアルト・サックスのアート・ペッパー。『ランドスケープ~アート・ペッパー・ライヴ・イン・トウキョウ '79』(96kHz/24bit)から「トゥルー・ブルース」(『ベスト・オブ・ジャズ・ハイレゾサウンド』にも収録)。こちらはホールでのライヴ。こちらもけっしてホールの空間を録音しようとしたわけではない。楽器はそれぞれオン・マイクのマルチ・レコーディング(たくさんのマイクを楽器に近接して録音)。もちろんそうやってもマイクは会場の響きを拾っているので、ライヴだとわかる。拍手も盛大だし。そこまではCDだって同じだ。でも、それだけじゃないんだな。ペッパーが楽しそうだし、お客さんも彼の演奏を歓迎しているのが伝わってくる。たぶんこれはコンサートの1曲目なのではないかな。そんな高揚感がある。CDでも演奏の素晴らしさは当然わかるけれど、やっぱりハイレゾにはさらに感じる何かがあるに違いない。音は不思議なものだなぁ。ブルース・リーじゃないですが、ハイレゾは「考えるな、感じるんだ」と始めるのがいいんじゃないかな。
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