音楽の楽しみを邪魔するもの
みなさんはジャズを聴く時、どんなメディアで、どんな環境で聴いているでしょうか。多くの人はメディアはかデジタル・オーディオ・データ。環境はCDプレイヤー、パソコン、デジタル・プレイヤーといったところだと思います。それぞれ長所も短所もあって音質もさまざま。使い分けている人も多いと思いますが、その基準はどんなところにあるでしょうか。場所とか気分とかいろいろだと思いますが、いずれも目的は「音楽を楽しむ」ことですよね。
ところで、音楽鑑賞メディアは、エジソンの蓄音機からすでに100年以上の歴史があり、その間に飛躍的な進化を遂げました。振り返るとこれはひたすら「いい音追求の歴史」なのでした。ジャズについていえば、最古のジャズ録音とされるのは1917年録音のオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドのですが、そのメディアはいわゆるSPレコードでした。片面1曲約3分、音質は低音がよく聴こえないし、しかもノイズだらけで今の耳にはけっこう厳しいものです。でも当時はミリオン・セラーになったそうですから、「音楽が記録されていること」だけでもすごいことだったと想像できますね。時は流れて、現在主流であるCDは(理論的には)人間の可聴範囲の音すべてを入れ、そして聴くことができるというすごい性能になりました。では、なぜこんなに進歩してきたのでしょうか。その理由をひと言でいえば、「いい音」の方が「より音楽が楽しめる」から。みんなそれを求めたからですよね。オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドが今聴きづらいのは、音楽が悪いわけじゃなくて、音楽とは関係ないところが邪魔をしているだけなんですよね。
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高音質か利便性か
1980年代初頭にCDが実用化され、CDの「いい音」はいつしか当たり前のことになりました。発表時には「夢のオーディオ」といわれたCDも、不思議なもので一度慣れてしまうともうそれでは満足できなくなってしまうのですね。さらに当たり前どころか、21世紀になろうとする頃には不満足メディアにまでなってしまった。そして次世代としてやといったCDを超える音質のメディアが開発されていきました。「いい音追求の歴史」はどんどん続いていたのです。
その一方で、コンピュータが発達・普及し、コンピュータをデジタル・オーディオ・メディアのプラットフォームとして使うという流れができました。CDもデジタル・データですから、パソコンとは相性がいいわけですね。でもやっかいな問題がありました。デジタル・オーディオ・データはデータのサイズが大きすぎて当時のパソコン環境では扱いが面倒だったのですね。そこでやなどのデータ圧縮技術が開発され、サイズは飛躍的に小さくなり、パソコンでも扱いが容易になって、データとして配信や持ち運びもできるようになりました。
技術の進歩はすばらしい、と思う一方、これについては異議があります! データのサイズが小さくなることで利便性は増しましたが、それは音質を犠牲にすることで成り立つものだったのです。「いい音追求の歴史」が、21世紀になって初めて「退化」したのです。そしてDVD-Audioの衰退やSACD頭打ちの一方、圧縮音源が爆発的に普及したということは、現在、多くの方々の価値観は音質より利便性が圧倒的に優位にあるということなのでしょう。「音楽の楽しみ方」の方向がちょっと変わったのですね。
でも今、もう一度考えたい。例えば、誰でも電話の音質に不満を感じた事があると思う。ほんとはこんな声じゃない、と。これを音楽にあてはめてみるとどうでしょう。ほんとはこんな音楽じゃない、となりますよね。ミュージシャンやレコーディングエンジニアが精魂込めて仕上げたオリジナルの音が、データを小さくするために間引かれて(=圧縮)しまうのですから…。もちろんMP3と電話とは違うけど、極端にいえばそういうこと。
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無限大の「器」とハイレゾ
「退化」の理由はデータ・サイズが大きすぎたからといいました。でもそれは「当時」のこと。コンピュータ関連の技術の進歩はすごいですね。オーディオの比じゃないですよ。記憶容量も飛躍的に大きくなり、これまで「巨大」といっていたファイルサイズは、年々「普通」に、そして「小さく」と認識が変わっていった。文字どおりケタ違いに進歩し続けていますね。パソコンを日常的に扱っている人なら買い替えのたびに実感していると思います。はい、2014年現在、今はもう「退化」の理由になった制約はなくなってしまったのです。MP3開発当時に比べると、(もちろん限界はあるけど)大きなデジタル・オーディオ・データでも、パソコンの性能向上と記憶媒体の巨大化(と低価格化)により、扱いは格段に容易になりました。さらに、これによりこれまで音楽データのパッケージとして標準だったCDの“「器」の大きさ”も考える必要がなくなりました。つまりCD規格以上の音質のデジタル・オーディオ・データを扱うことも容易にできるようになったのです。こうした状況で注目され始めたのが、CD音質以上の高解像度デジタル・オーディオ・データ…いわゆる「ハイレゾ」です。CDよりも高解像度(=ハイ・レゾリューション)ということで、「ハイレゾ・オーディオ」と呼ばれています。この「ハイレゾ」によりオーディオ環境は、一時の「退化」あるいは「停滞」から、今また「進化」=「いい音追求」に向かって動きだしたのです。
ここで最初に戻ってもう一度考えてみます。やっぱり「いい音」ほど、音楽に没頭できますよね。もし、音質がどうこうと感じるのであれば、それは邪魔されているということなんだな。「いい音追求」は、「音楽鑑賞」において正しい姿勢なのだと思う。なんて、いつになく堅苦しく言い切ってしまっているけど、じつはこれは「もうハイレゾを知ってしまった」から。まあいきなりハイレゾでなくても、一度今聴いている音より「いい音」で聴いてみるといいと思います。ふだんデジタル・プレイヤーで聴いているなら、オーディオファイル(MP3やWMA)のを上げたり、非圧縮ファイル(WAVなど)で聴いてみる。そこで音楽がより楽しく聴けたなら、もう現状にとどまる理由はないですよね。そしてさらに「いい音」がその先で待っていますよ。おすすめはもちろんハイレゾ。じつはハイレゾはとてもかんたんで、確実に「いい音」が聴けるのです。詳しくは次号から。