さて、「EX-AR7」とはどんなコンポかよくわかったところで試聴です。まずは今村さんが用意したたくさんの試聴CDから環境音とピアノをミックスした音源を聴いてみる。
あああああ(感嘆です)。この小さなスピーカーからこの広がりは何なんだ!
響きがナチュラルかつ、音色が異様なほどナチュラルだ。つまり空間の再現性がすばらしい。なんて言うと、先ほどのレクチャーの「点音源」や「異方性振動板」の話の思い込みだろうなんて突っ込まれそうだけど、いい音は出た瞬間にわかるよね。しばらくは今村さんのお勧めのCDを楽しませていただいて、しばしジャズ喫茶状態。それにしてもどの音源も最初の印象のままだ。やっぱりトップモデルなんだな。
いやー、ありがとうございました。でもこれで終りにするわけにはいかないのです。
フフフ、今日は「貸し切り」試聴会だから、ふだんの試聴会では聴けないであろういろんな音源を持ってきたのですよ。
今村さん、今日はいろんなCD持って来てるんですが、聴かせていただいていいですか? 「どうぞ」というわけで私マスターがカバンから取り出したのは日本盤『ワルツ・フォー・デビイ』とアメリカ盤ボックスで1961年6月25日ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴを当日の進行順そのままに収めたアルバムに収録された2種類のアルバム。ビル・エヴァンスの超有名盤かつ、オーディオ・チェックの定番アルバムです。今日はその2枚の差がどのように再現されるか聴き比べをしてみようと思ったのです。すると、これも比較に加えて下さいと差し出されたのが『ワルツ・フォー・デビイ』のxrcd盤(こんな打ち合わせはしていないぞ。マスターの手の内は読まれていたのか?)。というわけで、同じ曲を3種の音源で聴き比べとなりました。ちなみにxrcd盤はアメリカのスタジオでオリジナルマスターからマスタリングされたもの、紙ジャケの20bitK2 HQCDは日本にライセンスを受けているサブマスターからのマスタリングなんだけど、オリジナルはサブに比べて経年・使用劣化があったという。アメリカ盤ボックスは当然オリジナルマスターで、この中では最新のリマスタリング。でも面白いことにアメリカ盤なのに何故かビクターの20bitK2技術で記録されているのね。というわけでスペック的な優劣は微妙なところ。ワクワク。
試聴CD:ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビイ』xrcd(1997年発売 ビクターエンタテインメント)/『同』20bitK2 HQCD紙ジャケ(1994年発売 ビクターエンタテインメント)/『The Complete Village Vanguard Recordings、1961』(2008年発売Riverside/US)
曲は「マイ・フーリッシュ・ハート」を聴きました。…違う、違いすぎる!
正直この聴き比べには驚いた。特にピアノの音色、スネアをさするブラシのきめ細かさ、ライヴ空間(これはライヴ盤)の広がり方が3種3様はっきり違う。どれが良い悪いを言うつもりはないけれど、本当に同じ録音なの?別テイクじゃないの?と思えるほどでした。好みの差もあるけど、それにしても楽器の音色や、空間再現性の違いが、こんな小さなセットなのに(って大きさの問題じゃないんだけど)これほどまでにはっきりと出てしまったことが驚きだ。これが点音源を追い求めたフルレンジ1発の凄さなんだろうか。
続いては、これまたジャズ・オーディオ・チェックの定番、アート・ペッパー『ミーツ・ザ・リズム・セクション』。マスターはBernie Grundmanがマスタリングしたアメリカ盤のゴールドCDとビクター録音のDVDオーディオ(「EX-AR7」はこれもかかるのですよ!)を持って来たんだけど、これにもxrcdを加えて3種聴き比べ。16bit/44.1kHzだけどマスタリングエンジニアが違うCD2種類と、音楽の入れ物(容量)とフォーマットが違うDVDオーディオ24bit/196kHzの比較ですね。
これもいい意味でこれも差がハッキリと出ました。マスタリングの違いでこうも音楽性が変わるのか、フォーマットの違いでこうも情報量がちがうのか。音楽はこれだから楽しいね。好きな曲をいろんな形で楽しめる。CDだけでなく、映像の入ったDVDビデオやDVDオーディオも楽しめる。懐の深さを感じるね。で、痛感したのはソフトに入っていない音は出てこない。マスターテープの世代やマスタリングエンジニアの違い、プレス工程などによって音って違うんだなぁ。そこにこだわってソフトを集めるのも楽しいよね。それに気付かせてくれたのが「EX-AR7」の実力の高さであり、今回の比較試聴だったような気がします。今度、巨匠Rudy Van Gelderがマスタリングしたアルバムでも聴いてみようかな。
次は、『チャーリー・パーカー・ビッグバンド』から「ナイト・アンド・デイ」です。そうです、SP時代のモノラル音源です。
フフフ、今日はこれを楽しみにしていたのですよ。ハイファイとはほど遠いこのソースを「EX-AR7」はどう鳴らしてくれるのか。マスターのアイドル、チャーリー・パーカーのアルト・サックスは美しく歌ってくれるのか…。結果は…音が出た瞬間にわかった!ああ美しい。正直言ってこの音源は音量を上げると(音質とバランスが悪いので)かなりうるさいという認識だったのですが、「EX-AR7」だとすごく聴きやすい。これはなぜなんだろう。やっぱり「音楽として聞かせる」というところなのかな。スタジオチューニングの結果なのか。とにかくすっと耳に入って来る。モノラル特有の「濃さ」もよく出ている。他の曲は途中で止めたけど、この曲は最後まで・・・しばらく感動に浸っていました。
この他にも『フォープレイ』(電気楽器フュージョン)やら、『スタンダード・ジャズ・プロジェクト/布川俊樹』(最新録音ジャズでマスタリング@ビクタースタジオ。ウッドコーンでモニターされてたはず)などなどいろいろ聴かせていただきました。ちょっと趣味に走り過ぎて、みなさんの参考にはならなかったかもしれないですけど、結論としてはやはりアコースティック系がよく合うということ。「EX-AR7」の繊細な音色表現、空間の再現性はジャズにぴったりですよ。
※ヒラリー・コール『ユー・アー・ゼア』も聴いてます♪内容は4月の新譜紹介でどうぞ。
う~ん!実に満足。「貸し切り」試聴会ありがとうございました。でもいろいろ聴いているうちに、また今村さんに聞いてみたいことが出てきました。質問させてください。
▼Q:ズバリ聞きますが、やっぱり「EX-AR7」が《フルレンジ1発》シリーズではいちばんいい音なんですか?
▽A:それぞれクラスが違いますけど、それを考えなければ「EX-AR7」がいちばんいいということになりますね。
はっきり言っていただきました。たしかに「トップモデル」をうたっているわけだから、そうこなくちゃいけないんだけど、ゆるがぬ自信と技術者魂がないとなかなか言えるものではないと思う。
▼Q:コンポも商品である以上、開発はお金と時間と技術のせめぎ合いだと思うのです。どこで折り合いをつけているのですか?(マスターもたまには真面目な質問をするのだ)
▽A:これはすごく難しい問題なんですよ。研究開発はお金、時間、技術などさまざまなところに制約がある。「EX-AR7」の開発でラッキーだったところは、ゼロからのスタートではなくEX-AR3 Limitedをベースにしていること。実はリミテッドモデルは一般モデルに比べて開発費用が多くかけられるし、時間的にもさまざまなトライができるのです。その技術的な蓄積が生かせましたし、同じ部品や金型を流用できたりと、その分のコストや時間を他の部分にまわすことができたわけです。その結果「EX-AR7」はトップモデルにふさわしい完成度となりました。実はEX-A1からEX-A3に変わる時に製造コストを上げたんですけど、そこにはすごい戦いがあったんです。技術者がやりたいことと価格のギャップは常にありますし、どこで折り合いをつけるかの判断はほんとうに難しい。もちろん、発売の時は完璧に仕上げていますので、どのモデルでも完成度が低いということはありません。
▼Q:では、新しいモデルほど性能は向上していると考えてよいわけですか?
▽A:もちろん価格の差、クラスというものがあるし、商品としての性格はいろいろありますが、ひとつのモデルが完成すれば、今度はそれを元にしてさらによいものにしていくのが流れとしては当然ですからね。でもね、次のモデルを作りなさいって言われてもすぐ作れるものじゃないんです。常に次のことを考えている結果として次があるんです。
▼Q:新しいモデルが出るたびにさまざまな改良が加えられていますが、こういったものはトライ&エラーの繰り返しから生まれてくるのですか?
▽A:最後の追い込みはそうです。吸音材は0.1グラムで音が変わります。文字通り「サジ加減」ですよ。響棒も1ミリ変えれば音が変わる。でも大事なのは最初の発想ですね。たとえば吸音材を繊維系から木材にしましたが、最初は紙というのも考えていたんです。でもいろいろ試してもうまく結果が出ない。そんな時、ひょんなことから木材にすることを思いつき、これはいけそうだと、どんどん追い込んで結果を出した。これはテレビで「かんなくずを使った畳床」を見たことがヒントになっているんです。これがなければずっと紙で悩んでいたかもしれませんね。ヒントはどこに転がっているかわからないですよ。常にアンテナを張ってなければならないんです。