これまでマスターは新製品発表会のリポートなどを通じて「ウッドコーンオーディオシステム」(以下ウッドコーンコンポ)全7モデルをひととおり紹介してきましたが、実はその中でとても気になっているモデルがあったのです。それは「フルレンジタイプのトップモデル」EX-AR7。実はまだじっくり聴けていなかったのですよ。ウッドコーンについて熱く語ってきたにもかかわらず「EX-AR7」を聴かないでいていいのか?! きちんと紹介しないでいいのかと思った責任感の強い(いや、わがままか?)マスターはビクターのスタッフに、ぜひとも「EX-AR7」を試聴したいのですが…と恐る恐る尋ねたところ、なんと試聴会を開いてくれることになってしまったのです。しかも開発者である日本ビクター(株)技術部 開発グループの今村智さん(ウッドコーン生みの親。もうすっかりおなじみですね)まで来てくれるという贅沢な企画となってしまいました。恐縮しつつも大喜びで会場であるビクターの技術ビル「テクノウイング」(横浜市)の試聴室に向かったマスターなのでした。
試聴室に着くと、すでに今村さんはセッティングを終えていた。最高の性能を引き出すセッティングは開発者ご本人が一番よく知っているわけだから、これは参考にしたいなあ。どうぞ写真をじっくりとご覧ください。後で話が出るけど、ポイントは「点音源」であることを生かすことだそう。音出しの前にまずは今村さんによるEX-AR7についてのレクチャーから。
「EX-AR7の特徴について説明することは、実はウッドコーンの進化についてお話することになります。ここにはウッドコーン開発の歴史が刻み込まれているんです」と、ちょっと重めな雰囲気。「これを知ってもらえると、各機種の違いがはっきりしてくるから、最初に話しておきたいんですよ」とのこと。そうそう、見た目はみんなけっこう似ているけど、音はそれぞれ違うんですよね。「まずウッドコーンコンポのラインアップは2種類に分けることができます。それは《フルレンジスピーカー1発》と《2ウェイ構成》のもの。《フルレンジ1発》はウッドコーンの原点とも言えるもので、EX-AR7はそのトップモデルの位置づけです」。ふむふむ。そういえば以前紹介したEX-A150は2ウェイかつ限定商品だったから、ハイエンドモデルだけどポジションが違うんだな。今村さんの(例によって)熱いお話が始まった。
「ウッドコーンスピーカーの歴史はフルレンジユニットの開発から始まりました。このスピーカーの性能を最大限に生かすために開発した初めてのコンポがEX-A1というモデルです。それが一歩進んでEX-A3(いずれも現在は生産終了)になり、さらにEX-AR3に発展しました。ウッドコーンコンポはデジタルアンプのDEUSや、K2テクノロジーなどいろんな特長があるんですが、スピーカーを見ていくとその進化と各モデルの違いがわかりやすいんです」
「初号機EX-A1のウッドコーンユニットは、口径8.5センチでした。EX-A1でコンポは最初の完成・商品化となったわけですが、このウッドコーンユニットにはまだまだ高いポテンシャルがあると思っていました。《木》にはすばらしい可能性が秘められているんですよ。それをどう引き出していくか、そのために何をすればいいのか。ひとつの完成は次への出発点であるわけです。すぐに次の世代の開発が始まりました。その結果、第1世代EX-A1から第2世代EX-A3へスピーカーは大きな変化をとげました」
「ウッドコーンコンポは、小型フルレンジの良さを生かそうという考えがまずあったんです。小型フルレンジは点音源に近いので、音が球面波で伝わり、音場感・空間の広がりを上手く出せるんです。ですからバッフル(スピーカーが取り付けてある正面のボード)はEX-A1のようになるべく小さくしておきたいという条件とキャビネットの容積を増やしてもっと低音も出したいという条件の相反する欲求がありました。ここがポイントなんですが、ユニットのフレームのサイズをそのままにして振動板のサイズを5ミリ大きな90ミリ口径にしましました。また、キャビネットの奥行きを深くすることで容積を稼ぎ、バッフルの面積をそのままにした結果、点音源の良さを失わせずにスケールアップできたのです。さらにユニットのフレームに曲面加工(フラッシュサーフェイス)を施したのも点音源には効いています」
これが《創意工夫》だよね。相反する条件に見事に折り合いをつけ、さらに新しい要素まで追加している。
「見えないところはもっと違います。吸音材も変えました。それまではウールなどの繊維系だったんですが、これも木のチップに変えました。もちろんコンポとしてトータルなチューニングを施しているので、アンプユニット部のグレードアップなど改善点はたくさんあるんです。結果は好評。それまでビクタースタジオの全室でEX-A1が使われていましたが、すべてEX-A3に置き換えられたほどです」
「そして第3世代のEX-AR3ですが、もっと重心の低い低音再生などを目指して今度は内部構造に目を向けました。バスレフポートの位置を変え、竹の響板を入れたんです。これでかなり変わりましたね。さらに木製チップ吸音材も試行錯誤を重ねて、材質をチェリーからメイプルに変更。同じ木材でも表面積が異なるので吸音率がかなり違うんです」
はい。まだ本題の「EX-AR7」が出て来ないのでここで一度まとめてみましょう。EX-A1とEX-A3は今は生産されていないけど、第1世代の口径8.5センチユニットは現在のEX-AK1とBK1に引き継がれていますね。第2・第3世代の口径9センチのユニットとは現在のEX-AR3とBR3に生かされている。第3世代のEX-AR3では竹響板が導入された。EX-AK1/BK1とEX-AR3/BR3ではスピーカーがまるで違うのね。でもこれには「え、そうなの?」という人も多いかもしれない。だってスピーカーは仕上げの色の他はほとんど変わっていないように見えるものね。でもそれはカタログの写真のせい。上から見ると奥行きが全然違うし、後ろから見ればバスレフポートの位置が違う。でも正面バッフルはまったく同じサイズでフレーム径も同じだから違いがわからなくても無理ないかも。あれ、今気がついたけど、「EX-AR7」もバッフルとユニット径がこれらと同じサイズじゃないの! この《フルレンジ1発》コンセプトは最初からまったくブレてないんだね。
「これだけ話してまだEX-AR7にたどり着きませんが(笑)、「EX-AR7」を説明するにはEX-AR3の限定モデルであるEX-AR3 Limitedを説明しなければなりません。実は限定生産モデルは量産モデルではできない贅沢ができるので、さまざまな試みを導入しました。
EX-AR3との大きな違いは、さらなる高音質のために従来はクラフト紙で作られていたボイスコイルの筒の部分(ボビン)をウッドコーンと同じ樺材にしたことです。また木にこだわっちゃいました。この製作はとてもたいへんな作業で、時間と手間、コストがかかりすぎる上に安定供給が難しく、量産モデルには使えなかったのです。なにせ熟練した職人さんでも難しい手作業ですからね。
また、振動板の表面にも、木目の方向を変えたチェリー材の異方性振動板を加えるなど、結果的にすばらしい音質向上となりましたが、いかんせん限定モデルですから1000台の完売後はもうその音を聴くことはできませんでした。でもさすがに評判は高く、ぜひもう一度出して欲しい、何とか通常モデルとして発売できないかという要望にお応えし、EX-AR3 Limitedで課題となっていたウッドボビンの安定供給をクリアーし、量産モデルとしてモディファイしたのが今回聴いていただくEX-AR7というわけです」