前回、マスターはウッドコーン搭載オーディオシステム「EX-BR3」と「EX-BK1」の 新商品説明会に潜入してきました。今回はこの2モデルが加わったことで大幅に広がったラインアップと、《ブラックモデル》の詳細についてお伝えします。
今回の新商品説明会で、ウッドコーンのラインアップに《ブラックモデル》の2機種「EX-BR3」と「EX-BK1」が加わった。数えてみると、この2機種と、第11弾その1でご紹介したフラグシップモデルの「EX-A150」。そして《ブラックモデル》のベースになった、ロングセラーを誇る定番モデル「EX-AR3」と「EX-AK1」。さらにその「EX-AR3」をベースにした上位モデル2バージョンの「EX-AR5」と「EX-AR7」がある。えーっと、これで全部で7機種になった。きっと大好評、ということなんだろうな(でも、こんなに出しちゃって大丈夫なのかな?)。最後の2機種はまだジャズカフェでは登場していなかったので、まず今回はそちらの紹介から。
「EX-AR7」は、「EX-AR3」をベースに徹底的なチューンアップを図った限定モデル「EX-AR3Limited」(生産完了)の後継モデル。「EX-AR3Limited」は、その名のとおりビクターパートナーショップ専用の「限定モデル」として登場したんだけど、それを一般の量販店でも買えるようにしてほしいとの声に応えたモデルなんだ。仕様は実は「EX-AR3Limited」とほとんど同じ。大きなポイントは2つ。
1.異方性振動板:「EX-AR7」の振動板はコーンの裏側ではなく表側にチェリーのシートが貼ってある。効果の狙いは「EX-A150」と同じだけど、シングルコーンなので音の広がりをより改善してあるそうだ。
2.特製ウッドボイスコイル:これは「EX-AR3Limited」「EX-AR7」だけの特長。「木」の響きにこだわり、ウッドコーンを駆動するコイルが巻いてあるボビンに着目。一般的な素材はクラフト紙なんかがあるんだけど、何とこれをウッドコーンと同じカバ材にしたんだ。それを極限まで薄く削り(何と80μm!)加工してボビンに仕上げたとのこと。
あと、外見からすぐわかるのが天板。ウッドが貼ってある。他にもスピーカー端子が金メッキされていたり、付属のスピーカーコードがやたら太かったり、インシュレーターが真鍮削り出しになっていたりと、ある面、価格の制限を緩めて作ったぜいたくなモデルなんだな。これも「EX-A150」と違った意味で《プレミアムモデル》ですね。
「EX-AR5」は「EX-AR3」に2ウェイスピーカーを組み合わせたワイドレンジモデル。見ておわかりのように「EX-AR5」のスピーカーは「EX-A150」にそっくり。エンクロージャーのサイズが少し小さく、内部にネットワークが組んであるという違いはあるが、コーンの裏側にチェリー材のシートを貼った異方性振動板やユニットの内部に貼られた木製吸音材、チェリー材の響棒や竹響板、メイプルチップの吸音材など「EX-A150」のスピーカーと共通する部分が多いんです。センターユニットは、基本的に「EX-AR3」と同じだけど、こちらもチューニングに数々の工夫がされている。グレードは「EX-A150」には及ばないかもしれないけど、ゆとりのある2ウェイスピーカーは魅力だね。ビッグバンドなんかに向いているかも。
さて、ちょっと機能的な説明が多くなってしまったけど、今回発表された《ブラックモデル》は、まずデザイン面に目を向けた一味違う観点からのアプローチ。でも、デザイン優先だからといって「音」を犠牲にすることはビクター技術陣は絶対に許さないのだった。
《色を変えるということは、音も変わるということなのだ》
「EX-BR3」と「EX-BK1」は、既存モデル「EX-AR3/AK1」の《ブラックモデル》ということは前回お伝えしていますが、まずどうして《ブラック》を作ったのかというと、「市場のニーズがたいへん高かった」から。これは一歩突っ込んで考えると、「EX-AR3/AK1」がきちんと認知され、音もよいということの証明だ。「オーディオは音が命」だから、当然ながらこれがよくなければ「追加注文」である《ブラック》の要望も出てくるはずはない。
マスターはオーディオ機器についてはいくつか持論があって、ひとつは「オーディオは顔が命」(「おいおい」という声が聞こえてきたぞ)。もちろん「音が命」が前提としての話ですが、みなさん考えてみてください。オーディオ機器は毎日使いますよね。その顔、容姿が好みでなかったらどうでしょう。「音はいいんだけどね…あまりカッコよくない」ではオーディオ・ライフもちょっと寂しくありませんか。逆に、眺めるだけでも美しい(というか好みのタイプ)なら毎日楽しいですよね、きっと(女性の話をしているわけではないんですけど)。このワクワクも音のうちとも言えるのではないかな(厳密には違うけど、感覚的にはアリではありませんか?)。というわけでオーディオ機器の見た目はとても重要だと思うのです。中でも色は大きな要素です。
実は説明会で、パッと黒布を外されて現れた《ブラック》にマスターはかなりクラッときたのですよ。鏡面仕上げの黒は、イメージとしてはピアノそのものですから、「スピーカーは楽器でありたい」というウッドコーンの思想も直接的に伝わってくるではありませんか。
最初に《ブラック》ありきの「EX-BR3」と「EX-BK1」。ただ「黒く塗りました」だけではないことは前回お伝えしてますが、その尋常ではない(?)こだわりには改めて驚きだ。考えてみれば既存モデル「EX-AR3/AK1」のエンクロージャーがなぜ天然チェリー材仕上げだったのかというと、それは「音がよいから」。音が最優先の選択だったわけです。でも今回、黒い鏡面仕上げにはチェリー材は向かないということで、MDFが採用になっている。MDFは楽器にも使われるほどの素材だから、もちろん音響的にはよいのだけど、当然そのままでは「EX-AR3/AK1」と傾向の違う音になってしまい、《EX-AR3/AK1のブラックモデル》という当初の狙いから外れてしまう。ならば可能な限り同じ方向へ持って行きましょうと、例によって「こだわり」が始まったというわけだ。やるとなればトコトンやるんだね。
チェリー材とMDFのもっとも大きな違いは「木目」。「EX-AR3/AK1」では木目の向きで音が決まっていたと言ってもいいくらいその「天然の特性」を生かしていた。一方のMDFは「均質」であることが最大の特徴なので、かなり違うであろうことは容易に想像できる。そこでビクター開発陣は何をしたかというと、「内部にチェリー材を仕込んだ」のでした。「EX-BK1」では、前方に横長のチェリー材を1本、後方に縦長のチェリー材の響棒を2本追加しているが、いずれも「前後共に繊維の方向を上下に合わせて」響きをコントロール。一方「EX-BR3」では繊維の方向がシビアに追い込まれた竹製の響板があるため、前方に2本「繊維の方向を上下に合わせて」追加されたチェリー材の響棒で狙った音質に追い込むことができたそうだ。
アンプ部のこだわりは、前回の商品説明会のリポートでもわりと詳しく書いたので繰り返さないけど(また読んでください)、天板ワッシャーのひとつひとつの材質やアースの落とし方までチェックして、《EX-AR3/AK1のブラックモデル》にふさわしい音に仕上げられている。「EX-BR3」はスタンダードモデル、「EX-BK1」はエントリーモデルの位置づけなんだけど、目立つ違いはUSB機能の有無。「EX-BR3」はUSBのスロットが付いていて、そこからMP3フォーマットの再生や録音(CD→MP3)もできる。デジタル対応について言えば、「EX-BR3/BK1」ともにMP3、WMAなどのメディア再生ができ、ビクター独自の高音質化技術「K2テクノロジー」も搭載。「素材」に代表されるアナログ部分から最先端のデジタル部分まで、微に入り細を穿つこだわりの結晶だ。目立たないところでもディスク・トレイやインシュレーターの構造や素材などが異なっており、価格相応にグレードはあるけど、どちらもとことんこだわって、いい音出してます。
試聴会では、「EX-BR3/BK1」を入れ替えながら聴き比べをさせてもらったんだけど、どちらもウッドコーン・シリーズの傾向をしっかりと感じる音に仕上がっていた。こういう気軽さが小型モデルの魅力のひとつだけど、後で聞くと「ひょいと入れ替え」でも実はこだわりの工夫がされていて、電源コンセントやスタンド、スピーカー・インシュレーターは強力に本格的なものを使っていた。「EX-BR3/BK1」はスタンダード・モデル、エントリー・モデルという位置づけを超えて、こういう部分もしっかりと受けとめられる「オーディオとしての器」があるんだな。使いこなし甲斐がありそうだ。
そしてどちらも顔がいいね(しつこい? でも美人に甘いわけではないよ。音にはうるさいんだ)。言い忘れましたが、スピーカーの黒い鏡面は手作業によるバフ仕上げ。しかも2回だって。磨きは音に出ているはず。
日本ビクター(株)技術部 開発グループの今村智さんをはじめ、技術担当の方の説明を聞いていると、「これは大変だったんですよ」という言葉が何度も出てくるが、それが楽しそうに聞こえるところがいいなあ。困難を乗り越えた自信があるんだな。もし、黒くしたことによるデメリットが音に出てしまえば、「EX-AR3/AK1」の高い評判も落とすことになりかねないわけだから、プレッシャーもあったに違いない。でも、今回の音を聴くと、「EX-AR3/AK1」の特徴をしっかりと継承しながら、ウッドコーンのシリーズにまた新たな魅力が加わった感じ。熱い技術者スピリットに拍手だね。