沖仁(おきじん)は日本を代表するフラメンコ・ギタリスト。そして渡辺香津美は説明不要のジャズ・ギタリスト。1974年生まれの沖より渡辺は21歳年上。聴く前には「フラメンコ対ジャズ」あるいは「異世代ギターの激突」みたいな予想をしてしまうが、実際にはそういう聴き方ができるだけでなく、さらにそこに「美しく寄り添い合うギター・アンサンブル」という要素も加わる。つまりさまざまなギターの魅力がぎっしり詰まっているアルバムなのだ。 ふたりは2011年からたびたび共演、このアルバムは今年の全国4カ所7公演からのベスト・テイクを収録ということで、息はぴったり。全13曲収録。さまざまな聴きどころがあるが、ジャズ・ファンには「地中海の舞踏〜広い河」、そして「スペイン」が気になるのではないかな(気になったのだ)。「地中海の舞踏〜」はアル・ディメオラ、パコ・デ・ルシアの共演(『エレガント・ジプシー』)がオリジナルで、もともとそのふたりが「フラメンコ対ジャズ」のために書いた曲。沖、渡辺ふたりの共演には実にふさわしい。イントロからの観客の盛り上がりも、さもありなんというところ。というわけでここは「激突」しなければならない?のだが、ふたりはちゃんと期待に応えてくれた。中盤のユーモラスなやりとりも面白い。そして「スペイン」(チック・コリア作曲)は、ラリー・コリエルがアコースティック・ギター・デュオで録音してから、いつしかギター・バトルの定番として定着した曲。ここでは「アランフェス」を引用する正調イントロからスタート。そして渡辺はエレクトリック・ギターを使い、アコースティック対アコースティックの「勝負モード」とはひと味違うところが新鮮だ。 どうもジャズ・ファンは同じ楽器がふたりいると「競演」ばかり期待してしまうところがあるが、ギターの場合はふたりいると「共演」でサウンドの幅もぐっと広がる。特に渡辺の多彩なエレクトリック・ギターの音色とフラメンコ・ギターの組み合わせは新鮮だ。「ラ・ジュビア・リンビア・エル・アイレ」「パトリシアの恋」(いずれも沖作曲)の聴きどころはギター・アンサンブルだし、「リベルタンゴ」(アストル・ピアソラ作曲)のアルペジオの絡みの美しさはギターならではのものだ。CD2枚組のヴォリュームだが、ラストのパット・メセニー作曲「アントニオ」まであっという間。フラメンコ・ファン、ジャズ・ファン、ギター・ファンだれもが、改めてそれぞれの世界の奥深さをいま一度感じるに違いない。