『ジャズ・カンヴァセイションズ』は、世界的アレンジャー/ビッグバンド・リーダーである秋吉敏子(1929年生まれ)と、クラブ・ジャズ・シーンで活躍するシンガー・ソングライター、Monday満ちる(1963年生まれ)の共演アルバム。親子ほど年が違うふたりの共演なんですね、というのがギャグにならない人もいるかもしれないが、ふたりは親子である。
Mondayは秋吉とサックス・プレイヤー、チャーリー・マリアーノの間に生まれた。Mondayと秋吉の初共演はMondayが13歳の時。トシコ=タバキン・オーケストラで歌っている。そして1980年の秋吉のアルバム『トゥッティ・フルーティ』は、秋吉トリオとフルート4本の共演だが、そのフルートのひとりがMondayだった。当時はマンディ・マリアーノ(ミチル・アキヨシ)とクレジットされている。その後は91年の、Monday満ちるとしてのデビュー作『Mangetsu』に秋吉と義父であるルー・タバキンが参加。そして99年に秋吉、タバキンと共演、2005年には秋吉とデュエット・コンサート。そしてその後はシンガーとしてトシコ=タバキン・オーケストラのツアーに参加するなど、たびたび共演は重ねてきていた。そして今回、満を持してのアルバム制作となった。
編成としては秋吉のピアノ・トリオ+Monday。ここでMondayはヴォーカルとフルート、そして作詞を手がけている。でもMondayは「私はジャズ・シンガーではない」と言う。これまでの活動を見れば、一般的には少なくとも彼女は「ジャズ系」のシンガーという認識だろうが、本人の意識としては違うということか。仮にそうだったとしても、生まれたときから耳にしていた母親の「ジャズ」の影響はとても大きかったに違いないし、そのときからずっとジャズはふたりの共通言語となっていたはずだ。だからこそ、ジャズ・シンガーではなかったとしても、近年の共演も今回のアルバムも、感性豊かな「ジャズ」になっているのだ。まさに『ジャズ・カンヴァセイション』というタイトルそのものだ。
聴きどころは多いが、注目すべきは1曲めの「ロング・イエロー・ロード」。これは75年にトシコ=タバキン・オーケストラが発表した、世界に秋吉の名を広めた代表曲のひとつ。ここにMondayが歌詞を付けて歌っている。またルー・タバキンの名曲「ブロークン・ドリームス」にも同様にMondayの歌詞が付く。親子とはいえ、これだけのことが許されるということは、やはりそこにはお互いの深い音楽的相互理解があったはずだ。それが音になっている。
ジャケットには、小さいが「The Other Side Of Monday Michiru」というサブタイトルがある。だがこれはMondayだけでなく、秋吉の「Other Side」も垣間みれるアルバムにもなっている。世代を超え、時代を超え、やはりジャズは会話で作られるのだな、と感じる。