ビ・バップ、ボサ・ノヴァ、アフリカ音楽、フュージョンなど、およそ「ジャズ」に含まれる音楽はすべて演奏し、作品として残してきたであろう渡辺貞夫だが、今回のアルバム『アイム・ウィズ・ユー』は60年を越えるキャリアの中で、なんと初めてのビッグバンド・アルバムになるという。もちろんビッグバンドでの演奏経験がなかったということではない。渡辺貞夫は2014年初頭に17年ぶりに自身の名を冠したオーケストラでの活動を行ない、それをビッグバンドに拡張してツアー、その記録が初めてのビッグバンド・アルバムとなって残されたというわけだ。
ホーン・セクションのメンバーはその17年前とほぼ同じ。当時若手だったメンバーもいまではトップクラスのベテランたちとなった。リズム・セクションはアメリカ勢を招いた。ピーター・アースキンはウェザー・リポートの活動で知られるが、実は世界最高峰のビッグバンド・ドラマーでもある。ピアノのラッセル・フェランテは渡辺貞夫とは20年以上のつきあいだ。今回のビッグバンドはありがちな「1回限り」のものではなく、このメンバーで名古屋、大阪、神戸、鎌倉、軽井沢とツアーをした後に東京でライヴ録音されたもの。メンバーが旧知の間柄ということに加え、ツアーで練り上げられた演奏は、ソロもアンサンブルも最高!というほかない。
演奏曲は、全曲が渡辺貞夫のオリジナル曲を村田陽一、ボブ・ミンツァーらの腕利きアレンジャーが新たにビッグバンド・サウンドに仕上げたもの。ごきげんにスウィングする85年発表の「トーキョー・デイティング」で始まり、74年の「ヒップ・ウォーク」、阪神大震災のレクイエム曲「アイム・ウィズ・ユー」、音楽活動60周年記念アルバムから「ウォーム・デイズ・アヘッド 」「エアリー」など新旧のヒット曲がビッグバンド・サウンドで演奏される。そしてステージは自身のテーマ曲とも言える「マイ・ディア・ライフ」で幕を閉じる。まさに「渡辺貞夫の世界」を今また新しく表現しているといえるものだ。80歳を超えてなお、前進を続ける渡辺貞夫。ホントすごい!