新作『アフロディジア』は、『ルネッサンス』以来約3年ぶりの新録によるスタジオ・アルバム。
マーカスは2013年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の「アーティスト・フォー・ピース(音楽平和大使)」に任命され、以降ユネスコの奴隷制度問題プロジェクト(Slave Route Project)に参加。奴隷制度の歴史、知識などを広める活動をしている。そしてアフリカン・アメリカンの歴史を研究するうちに、奴隷たちにルーツを持つ音楽の歴史に興味を持った。そしてその悲惨な時代に音楽は人々の大きな助けになっていたことを知り、音楽の強い力を感じたという。そしてマーカスは、そのルーツを探ってアフリカを訪ね、実際にそこにある音楽に触れ、世界中のミュージシャンとともに作り上げたのがこの『アフロディジア』である。
ゲスト参加したのはセネガル、ナイジェリア、ガーナ、マリ、ブラジル、カリブ、アメリカ南部のアーティストたち。これはいわばマーカスの、ブラック・ミュージックのルーツ探しの旅の記録だ。その結果、アフリカ音楽からブルースまで幅広い(奴隷の歴史と連動したという側面を持つ)ネイティヴなブラック・ミュージックをマーカス流にミックスした、洗練されたコンテンポラリー・ジャズが生み出された(ジャズ・ファンはロバート・グラスパー[kb]、アンブローズ・アキンムシーレ[tp]にも注目)。
1曲目のタイトル「ハイライフ」とは、ガーナ発祥のアフリカ音楽のスタイルのこと。5曲目「パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン」はテンプテーションズの70年代ヒット曲のカヴァー。また6曲目「アイ・スティル・ビリーヴ・アイ・ヒア」は、フランスのクラシック作曲家ビゼーのオペラ「真珠採り(Je Crois Entendre Encore)」をアレンジしたもの、といったように曲はさまざま、ミュージシャンもさまざまだが、ベースの音一発でマーカスの音楽とわからせるところはさすが。
音楽はアフリカの奴隷たちにとって声に代わる表現であり、励みや希望となる強い力を持つものだった。これは音楽に対するマーカスのそんな想いが込められたアルバムだ。