国府弘子は1987年デビュー。これまでに21枚ものアルバムを発表してきた。ジャズ・ピアノ・トリオはもちろん、ギターとのデュオ、オーケストラとの共演などなど、ジャズ・ピアノに関してはありとあらゆると言っていいくらいの幅の広い活動をしてきた彼女が、8年ぶりのオリジナル・アルバムの編成として選んだのは、ソロ・ピアノだった。ホールとピアノにもこだわり、1曲ごとに曲想に合わせてマイクを変え、セッティングも変えて最高のピアノの響きを奏でることに集中した作品となった。
本人の言葉によれば、「何を弾くかより、どう奏でるか。ジャンルが何であろうと響きに耳を傾け、音色に心を注いで自分のピアノを奏でた」のが本アルバムという。曲は新作のオリジナルからビートルズの「ゴールデン・スランバー」、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」や「ウエスト・サイド・ストーリー」など幅が広いが、だからそれは大きな問題じゃない。聴くべきものは「国府弘子のピアノ」なのだから。
プレイ・ボタンを押した瞬間から、どっぷりとピアノに包まれてしまう。このピアノの響きはじつに心地よい。最後までもう身を委ねるしかない、という感じ。最後の曲、「男はつらいよ」は、あの国民的映画のテーマ曲。それをここではピアニカのソロで演奏している。ユーモアだな。アンコールのようにしみじみと余韻を残してアルバムは幕を閉じる。
なお、タイトルの「ピアノ一丁!」は国府がかつて出版したエッセイ集のタイトル。最後の「!」が重要だそうで、威勢よく発声しなければならないという。それは元気が出るはず、との思いが込められているから。でも発声しなくても、このピアノを聴けば、楽しくて、癒されて、そして元気になれる。
今回のアルバムはCDに加えて、ハイレゾ音源でも発売。しかも192kHz/24bitという最高スペックでのリリースとなる。アナログからのデジタル変換ではなく、もとからハイレゾ・デジタル収録だからその音のよさは極上。より細部まで「国府弘子の音」が楽しめるだろう。