今月紹介するのは、カレン・ソウサの『エッセンシャルズ2』。ここにはいわゆるジャズ・スタンダードは1曲もなく、ロック、ポップスのヒット曲をジャズにアレンジして歌っている。
近ごろはジャズ・ヴォーカリストが、まっこうからジャズ・スタンダードを歌うということは少なくなった。でもスタンダードを歌わないのは特別なのかというとそれは逆で、ある意味姿勢としてはジャズ・ヴォーカリストとして正統的とも言える。スタンダードは最初からスタンダードなのではなく、たとえば1950年代にジャズ・ヴォーカリストが取り上げていた当時のヒット曲(映画音楽やミュージカル)が歌われ続け、結果的にジャズ・スタンダードになったわけで、そう考えるとこの『エッセンシャルズ2』はごくごくまっとうなジャズ・ヴォーカル・アルバムなのかもしれない。
前作『ホテル・ソウサ』(2012年)はほとんどの曲が彼女のオリジナル曲だった。その前に作られた『エッセンシャルズ』はポップスやロックのジャズ・カヴァーであり、本作はその続編にあたる。というわけで、ジャズ・スタンダードはあまり歌わない(CDに収録されていない)カレン・ソウサだが、じゃあこの音楽はロックやポップスかというと、これがまたじつにジャズなのだな。
今回取り上げた曲は、エルヴィス・プレスリー、フリート・ウッド・マック、インエクセス、CCR、リック・アストリー、デュラン・デュランなど、もとの曲は時代もスタイルもさまざま。アルゼンチンのブエノスアイレスで生まれ、ダンス・ミュージックのヴォーカリストからジャズ・ヴォーカリストに転身したカレン・ソウサだから、「ジャズひとすじ」の人とは感覚は当然異なる彼女らしいユニークなもの。ふだんジャズ中心に聴いているリスナーなら大ヒット曲のカヴァーといわれても、馴染みのないものもたくさんあると思う。それならそれで彼女の新曲として聴いていけばよい。これはいい、と思うその曲が将来のジャズ・スタンダードになるかもしれない。きっと昔のスタンダードもそうして始まったのだから。