今回紹介するのは、フライド・プライドの『Rocks!』。フライド・プライドは、ヴォーカリストshihoとギタリスト横田明紀男による2人組。ヴォーカル&ギターのジャズ・グループは、古くはエラ・フィッツジェラルド&ジョー・パスからタック&パティなどなど、またジャズ以外でも珍しくない編成だが、フライド・プライドのような柔軟性と幅の広さ、スケールの大きさを感じさせるグループは思いつかない。2001年9月にアルバム・デビュー。それから13年。今回のアルバムは11枚目となる。11枚目になっても、最初の頃の新鮮さが変わらないというのは、すばらしいことだ。グループのアイデンティティを保ちながらも常に新しい魅力を発信していくことはたいへんなこと。同じスタイルを続けることはマンネリに通じるし(まあ、エラ&パスのように、常に同じやり方で膨大な数のスタンダードを歌い尽くそうというのも偉大な業績だが)、ただ目新しいことをやればいいってもんじゃない。実にうまい塩梅にフライド・プライドは変化を重ねてきた。
常に新鮮にあるための大切なポイントは選曲だ。ヴォーカリストがいるわけだから、インストより選曲の意味ははるかに大きいはず。それはアルバムが出るごとの楽しみでもあるわけだが、今回は『Rocks!』のタイトルどおりロックのヒット曲を集めている。「ミッシェル」「紫の炎」「悲しみのアンジー」「見つめていたい」など、オリジナルのアーティスト名の紹介の必要がないくらいの、超のつく有名曲ばかり。もったいぶった「隠れた名曲」ではなく、すがすがしいくらいの直球勝負には驚きだ。
大ヒット曲ゆえに、これまで存在するカヴァー・ヴァージョンも半端な数ではないはず。どの曲もアレンジには相当な苦労があったのだろうが、1曲もらさず、見事にフライド・プライドの音楽になっている。ロックのヒット曲だから、たいていはキャッチーなリフや印象的なフレイズがあるものだが、それに寄りかかっていないのがいいところ。例えば「紫の炎」には、あの有名なリフは冒頭には出てこない。盛り上がった後半で使われ、さらに勢いづいていくというアレンジだ。
もうひとつのポイントは、ゲストの参加。ふたりはあくまでユニットの核であって、フライド・プライドの音楽に必要ならゲストをどんどん加えてしまうという柔軟性だ。今回は「見つめていたい」にはヴォーカルの福原美穂が参加しているし、ベース、ドラムス、パーカッションが加わっているトラックもある。
にもかかわらず、いつもしっかりとその真ん中にいるのはフライド・プライドのふたりなのだ。グループとしての確固としたヴィジョンがうかがえる。