まず、何の説明も見ずに音を聴いてみた。ハッとした。視界がパッと開けたような感じがした。ジャズという音楽はいろいろあるけれど、暗くて狭い空間で繰り広げられているような、いわば伝統的な流れを汲んでいるものとはまったく違う。自然の風景や明るい陽射し、吹き抜ける風がそこにあった。キラキラしたタッチのピアノが、静けさを感じさせる美しいメロディを紡ぎだす。でも、そんなイメージの表現だけにとどまらないジャズ・プレイもたっぷりあって、「ニュー・エイジ」みたいなくくりには収まらない。
宮野寛子(ピアノ)の『オーシャン』はそんなアルバム。コモブチキイチロウ(ベース)と加納樹麻(ドラムス)とのトリオを中心に、曲によって宮野弘紀(ギター)、グスターボ・アナクレート(ソプラノ・サックス)らも参加する。全曲が宮野寛子のオリジナル。メロディがホント美しい。そして最初から最後までひとつのムードが流れていて、じつに心地よい。ゆったりと寛いでしまうなあ。
1曲めの「オーシャン」は冬のハワイの海、2曲めの「フィール・カラーズ」は冬の北海道、9曲め「パイザージェン・エストレラーダ」はポルトガル語で「星の見える風景」の意味、といったような言葉が解説に添えられているんだけど、それぞれの曲がまったくそのイメージなんだな。ちょっと驚いてしまうほど。出来上がった曲にそれ風のタイトルを付けているという感じがしない。きっといつも「自然」と感性が響き合っていて、その風景を見て感じて、曲をつくったのだろう。
宮野寛子のプロフィールを見ると、ライヴハウスだけでなく、「自然と食と音楽」をコンセプトに古民家やログハウスなどでもライヴ活動を展開しているという。やっぱり音楽は人なんだなあ、と思う。