今回のアルバム『スピリット』は、小林香織9枚目のアルバム。アルバムごとに毎回さまざまなテーマで楽しませてくれているが、今回のテーマは「日本のメロディ」という。とはいっても、古くからある日本の曲を演奏するというわけではなく、全12曲を書き下ろしている。つまり、自分が育って聴いてきた「日本」を形にするというもの。
「安土桃山」「江戸前」といういかにものタイトルの曲があって、その2曲には津軽三味線の浅野祥が参加して、和風テイストをさらに盛り上げているけれど、これはある意味看板的なもの。実際に彼女にとっての「日本」というものは、J-POP的な感覚なのだろう。どの曲もメロディはJ-POPのように親しみやすく、口ずさみたくなるものばかり。まさにヴォーカリストが歌詞を歌うかのようにアルト・サックスが気持ちよく歌っている。アドリブやサウンドの組み立てよりも、まずメロディを最優先にしている(ポップスですね)ということが伝わってくる。「太陽のオレンジ」「キミがいた場所」「涙のあとに」といったタイトルもJ-POP的だ。
サックスのインスト・アルバムというと、テクニックやアレンジだったりに耳が向きがちだが、J-POP感覚のインストと考えれば、聴きやすさとか親しみやすさとか、大切な部分や聴きどころも変わってくる。同じ歌でも、たとえばアメリカのスタイルに倣ってもしょうがない。タイや台湾にもファンクラブを持ち、オフィシャル・サイトのバイオグラフィは日英中の3カ国語で表記するほど、相変わらずアジア各国で人気の小林香織だが、そういうところにも人気の理由があるのだろう。
ちなみに今回のジャケット写真で彼女が手にしているアルト・サックスは、台湾ナンバーワンのサックス・メーカー、TK Melodyが制作した「小林香織モデル」(日本でも買えます)。こういうことからもアジアでの人気、実力がうかがい知れるというもの。