3作目となるこの『セルフ・ポートレイト』は、前作までに比べると企画的に目を引くところは少なく、地味な印象に映るかもしれないが、その分じっくりと歌い込み、じっくりと聴かせているという感想を持った。タイトルの『セルフ・ポートレイト』の意味するところのひとつは、コール自身によるプロデュースということ。1作目、3作目がジョン・ピザレリのプロデュースだったが、アルバム・デビューから5年、ここらで自身の活動を一度見直してみようということか。その結果は、ピアノ・トリオ+ギターをバックにしたスタンダード中心のアルバムとなった。
選曲やアレンジにも随所にセンスが光っている。「アイ・リメンバー・ユー」「ザ・マン・アイ・ラヴ」「イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー」「アイ・オンリー・ハヴ・アイズ・フォー・ユー」、スロー・テンポで歌う「ナイト・アンド・デイ」などの大スタンダードから、ミシェル・ルグラン作曲の「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」、シャンソンの「ホェン・ザ・ワールド・ワズ・ヤング」も歌っている。そして異色なのがポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法」と、ビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ヒム(ハー)」というポップス曲。だが、もちろん他の曲と並んで違和感はまったくないジャズになっている。
ロマンティック・ジャズ・トリオで知られるベテラン・ピアニストのジョン・ディ・マルティーノのツボを押さえた的確なバックアップと、実力派ギタリスト、ジョン・ハートの流麗なソロも聴きどころ。実にバランスのとれた内容で、何度聴いても楽しめるアルバムに仕上がっている。セルフ・プロデュースは大成功と聴けた。