「シュローダー・ヘッズ」はピアニスト、渡辺シュンスケのプロジェクト。この名は『スヌーピー(PEANUTS)』のコミックに登場する、ピアノ弾きのシュローダー少年にあやかってつけられたもので、そのアニメ版の音楽を手がけたヴィンス・ガラルディ(ピアノ)へのリスペクトの意味も込められているという(実際にシュローダー・ヘッズがこのテーマ曲をライヴで演奏している映像もサイトで公開されている)。『スヌーピー』の音楽はジャズ・ピアノ・トリオというのはジャズ・ファンならよく知るところ(ただしシュローダーはジャズを弾くわけではなく、トイ・ピアノでベートーヴェンを弾く)。
シュローダー・ヘッズは2010年にデビュー・アルバムをリリースし、本作『シナスタジア』がセカンド・フル・アルバムとなる。このプロジェクトはピアノ、アコースティック・ベース、ドラムスといういわゆる「ピアノ・トリオ」にプログラミング・サウンドを融合させるという試み。形だけをみれば特別めずらしいというわけではないが、あくまでジャズ・ピアノ・トリオがベースにあるところがユニークだ。
シュローダー・ヘッズは、この音楽をピアノ・トリオだけでプレイしていたとしても、それはそれでまったく楽しめる、とても充実した「ジャズ・ピアノ・トリオ」の演奏でもあるのだけれど、さまざまエレクトロニクスの味付けが入ることで「ピアノ・トリオ」の印象はかなり違ったものになってくる。鮮やかな色彩感が加わっている。それも、たんにモノクロの絵に鮮やかな色を乗せたという程度のものではなく、それによって奥行きと深みが出て、さらに絵がふた回りも大きくなったというか、そんなイメージ。
たとえば「Tokyo Tribal Sacrifice」は、中村シュンスケがマッコイ・タイナーやハービー・ハンコックのような鋭角的なフレイズをばりばり痛快に弾きまくるアコースティック・ピアノ・トリオがベースなんだけれど、そこにピュンピュンとシンセ音が飛び出してきたり、初音ミク(音声合成ソフト)によるコーラスが入っていたりと、今の時代だからこそのサウンドになっている。なにか、過去と未来を行き来しているような感じ。もちろんこれは奇をてらったというものではなく、渡辺シュンスケの自然な表現の結果であることは聴けばわかるし、言うまでもなくそこにはポップなセンスや技術が生きているからこそなんだろう。
アルバム全体をみると、「Blue Bird」はストリングス・サウンドをたっぷり使っているし、「3 on 3」は、ビョンビョンとシーケンスするシンセ音の上で、アコースティック・ピアノが軽やかに駆け回る。「Wildthing's Arm」にはヴァイオリンが入っていたり、といったぐあいにそのサウンドは幅が広いけれど、スムースにつながっていくのは、基本がピアノ・トリオという編成だからなのだろう。
ふだんジャズ・ピアノ・トリオをよく聴いている人にこそ聴いてほしい。きっと新鮮な驚きがありますよ。