カレン・ソウサは2013年7月にアルバム『ホテル・ソウサ』をリリースし、一気にジャズ・ヴォーカル・ファンからの注目を浴びた。そのアルバムは日本デビュー盤となったわけだが、彼女はその前に1枚のアルバムをリリースしていた。それがこの『エッセンシャルズ』である。
実はこの『エッセンシャルズ』は、もともと彼女のアルバムとして作られた音源ではないものを集めて作られている。どういうものかというと、オムニバス・アルバムでカレンが歌っていたトラックを集めたものだ。カレンは以前スタジオ系のセッション・ヴォーカリストだったようで、『Jazz and 70's』『Jazz and 80's』『Jazz and 90's』などの、年代別ロック・ヒット曲をジャズやボサ・ノヴァにアレンジするという「企画もの」カヴァー・アルバムのシリーズで、ヴォーカリストとして多くフィーチャーされていた。しかし、企画ものであろうと、実力のある人はちゃんとわかるものなのだ。やがてその歌声は評判となり、カレンの参加したトラックを集めて作られたのがこの『エッセンシャル』というわけ(そしてそれが『ホテル・ソウサ』に繋がっていく)。というわけで、内容は「カレンが懐かしの大ヒット・ロックをジャズでカヴァーしたアルバム」なのだが、正確にはちょっと違う。
ほんとバラバラ。ジャズ・スタンダードからロック、R&B、ボサ・ノヴァまで、驚いてしまうほどの広範囲。でも、「evergreen」と呼ぶのにふわさしい名曲ばかり。
最近ではロックをジャズ・アレンジで歌ったり演奏したりということは珍しくなく、またむしろ自然とも思うが、これはちょっと狙いが違う。ヒット曲のカヴァー集だから、大ヒットして多くの人が知っている「この曲を歌うこと」が大きな狙いなわけで、そこにセッション・ヴォーカリストとして参加するのは、好きな歌を歌うのとはまったくスタンスが違う。仮に好きじゃない曲でもきちんと完成させなければならない。ヴォーカリストとしての実力が要求されるわけだ。だから、ひとりのアーティストの作品として作られたものではないものを集めたにもかかわらず、『エッセンシャルズ』がカレン・ソウサのアルバムとしてリリースしてまったく違和感のないものになっていることには、ホント驚いてしまう。つまり、カレンはどこで何を歌っていてもしっかりとカレン・ソウサだったということだ。
そんなわけで、収録曲は「君は完璧さ」(カルチャークラブ)、「クリープ」(レディオヘッド)、「見つめていたい」(ポリス)、「ビリー・ジーン」(マイケル・ジャクソン)など大ヒット曲揃い。アレンジも「企画もの」ならではの聴きやすさと長さで、「アーティストもの」とはひと味違う、リラックスして聴くには絶好のアルバムになっている。