ボブ・ジェームスとデヴィッド・サンボーンは1986年に『ダブル・ヴィジョン』という共演アルバムをリリースしている。そこではジェームスはさまざまなキーボードを使い、いわゆるフュージョンを展開していたが、今回の『クァルテット・ヒューマン』は「アコースティック・ジャズ」なのだ。メンバーは、サンボーン(アルト・サックス)、ジェームス(ピアノ)、ジェームス・ジナス(ベース)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)という、このままフュージョンでもファンクでもなんでも来いの顔ぶれだが、ジェームスもジナスもアコースティックに専念。楽器編成は完全にワン・ホーン・ジャズ・クァルテットである。さて、どんなサウンドになっているのか。
ジェームス、サンボーン共にフュージョン系サウンドの印象が強いが、アコースティック・ジャズをやること自体は珍しいことではない。ジェームスはその昔サラ・ヴォーンの歌伴やフリー・ジャズまでやっていたし、90年代からのフォープレイでの作品連発の一方、96年の『ストレート・アップ』、2003年の『テイク・イット・フロム・ザ・トップ』などのピアノ・トリオ・アルバムもリリースしている。サンボーンはアコースティック・ジャズ・アルバムこそないが、2003年の『タイムアゲイン』ではジャズ・スタンダードをたくさんとり上げていたし、あまり知られていないけどティム・バーン(アルト・サックス)の『Diminutive Mysteries』(92年)では過激ともいえるフリー・ジャズをやったこともある。
そんなふたり(と腕利きバック)なので、例えばジャズのスタンダードを「せーのっ!」でセッションしてアルバムを作るぐらいなんでもないんだろうし、それでもすばらしいものができるだろうけど、さすがにそんな安易なことはしなかった(それも聴いてみたいけど)。ありがちなジャズのセッション・アルバムとは全く異なり、ジェームスの「一歩引きながらも隅々まで仕切るアレンジャー」体質、サンボーンの「オレの音を聴け」主義を前に出した、まさにこのふたりの顔合わせと言うべき絶妙にバランスのとれたサウンドに仕上がった。アコースティック・ジャズの編成ではあるが、アコースティック・ジャズのルーズさを意識的に排除した印象だ。
スタンダード「夜は千の眼を持つ」(日本盤ボーナス・トラック)がその象徴。ラテン系ビートで始まり、サビは4ビートというお定まりのアレンジなんか絶対にやるもんかという意思表示なんだろう、大胆なリズムとコードのアレンジが施されていて、のけぞりそうになるほど。ああ、ここはむしろジャズマン気質なのか。とにかく、聴いた後はモダン・ジャズ・アルバムではなく、「ジェームス&サンボーン」のアルバムを聴いたという感じが強い。優れたミュージシャンは、編成がどうであっても自分の音楽が絶対出る(いや、出す)ということか。