前回の新譜紹介でもお伝えしたが、小林香織の人気はアジア方面で絶大なものがあるという。2012年のアルバム『SEVENth』は台湾、香港、シンガポール、韓国で同時リリースされ、タイではサックス協会から「アジアで最も美しいサックス・プレイヤー」と賞賛され、台湾ではアルバムが2年連続でジャズ・チャートの1位を獲得、YouTubeの閲覧数はなんと460万回を突破するなどその勢いは止まらない。もちろん日本での活躍ぶりは説明の必要がないですね。
新作『アーバン・ストリーム』のテーマはR&B。タイトルどおり都会的なテイストの、インストゥルメンタル・アルバムだ。今作の特徴は、バックがすべていわゆる「打ち込み」、プログラミング・サウンドであること。そのトラックメイカーにはNOBU-K(EXILE、安室奈美恵を手がける。以下同)、MANABOON(清水翔太、加藤ミリヤ)、柿崎洋一郎(久保田利伸、CHEMISTRY、小柳ゆき)、SWING-O a.k.a. 45(福原美穂、MINMIのプロデュサー)ら、J-POP界のそうそうたる顔ぶれが名を連ねている。
まず一聴して感じられるのが、「ああ、小林香織の音だ」ってこと。サックスの音っていわば歌声だから、技量やサウンドよりもその「ヴォイス」が一番大切だと思うんだけど、彼女は完全に自分自身のヴォイスを持っているよね。
ここで気がついた。トラックメイカーがJ-POP系の人たちである理由にね。つまり、小林香織はここではサックスで歌うシンガーなんだ。バンドとともに縦横にアドリブ・ソロを吹きまくるのも魅力だけど、ここではカッチリと構築されたバックのサウンドの上で、まさにポップスのシンガーのように「歌う」のが狙いと聴いた。全13曲のうち11曲が彼女のオリジナル。どれも歌詞をつければ(声で)歌いたくなるような曲ばかり。サックスの多重録音のアンサンブルも、シンガーのバック・コーラスのよう。2曲のカヴァーはミニー・リパートンの「ラヴィン・ユー」とアース・ウィンド・アンド・ファイアの「セプテンバー」。これで方向性もより強調されているし、流れもスムースで、全体がポップ・シンガー・アルバムの感覚だ。また新しい小林香織の魅力が感じられるアルバムだね。