今月紹介の新譜は、ジョー・サンプル&NDRビッグバンドの『チルドレン・オブ・ザ・サン』。クルセイダースの諸作や「虹の楽園」など、多くの名曲を残してきたサンプルだが、これは全曲書き下ろし新曲という意欲作。ビッグバンドとの共演アルバムも初めてではないだろうか。
本作のプロデューサーはスウェーデン出身のトロンボーン・プレイヤー、ニルス・ラングレン。ラングレンとサンプルは、ニルスのアルバム『Creole Love Call』(2005)で共演している間柄だが、今回の共演はラングレンがサンプルに、NDRビッグバンドと何かやらないかと声をかけたのがきっかけという。NDRビッグバンドは、北ドイツ放送協会が運営するビッグバンドで、これまでもゲスト・プレイヤーを招いてのジャズ・アルバムを発表してきている(注:WDR[西ドイツ放送協会]ビッグバンドとは別)。一方、サンプルは長年大編成バンドでやりたいとあたためていたアイディアがあり、両者の希望が合致し結実したのが本作である。サンプルは盟友スティーヴ・ガッド(ドラムス)を連れてドイツで録音。すばらしいアルバムに仕上がった。
サンプルのアイディアの発端は、1995年にさかのぼる。その年、サンプルはヴァージン諸島での「サン・クロワ・ジャズ・フェスティヴァル」に招かれた。サン・クロワはアフリカから連れられてきた奴隷をアメリカに送り出していた経由地であったことでも知られている島で、サンプルはそこで奴隷たちの悲劇に思いをはせ、いつか彼らへのトリビュート作品を作りたいと考えたという。字面からは想像できないが、アルバム・タイトルの「チルドレン・オブ・ザ・サン」というのは奴隷のことを指している。「アイ・ワナ・ゴー・ホーム」「アイランズ・オブ・ザ・マインド」「アイ・ビリーヴ・イン」など、各曲のタイトルもそれぞれに深い意味がありそうだが、美しい島々のイメージもそこには投影されているのであろう、音楽自体は陽気なメロディでノリのよいものが多く、「奴隷」というテーマからイメージされるような深刻さはない。まずはこの音楽そのものを楽しみたい。
全11トラック中、サンプルは5曲でソロをとるが、一聴してジョー・サンプルとわかる相変わらずの美しいタッチはほんとうにすばらしい。作曲にピアノに、70歳を越えてもまったく衰えることはないサンプルの創作意欲にも感動の傑作だ。