今月の新譜紹介は、今や日本を代表する女性サックス奏者・小林香織の7枚めのアルバム『SEVENth』。「日本を代表する」というのは誇張じゃないよ。アジア各国での人気がすごいというのは1年前の前作『PRECIOUS』の紹介で伝えているけど、そこからさらに人気はうなぎのぼり。その時は「台湾でYouTubeにアップされたライヴ映像が350万回を超えて閲覧され…」だったのが、現在では460万回を超えているというし、タイのSAX SOCIETY から「The Most Beautiful Saxophonist In Asia」(アジアでもっとも美しいサックス奏者)を受賞したという事実もある。さらに『SEVENth』は日本と韓国と台湾で同時発売されることからも人気のほどがうかがえる。スケジュールを見ると、発売直後は日本でのプロモーションより先に台湾に飛ぶというほどだし、台湾を代表するCDチャート「G-MUSIC」のジャズ部門1位が発売前から確実視されているなんて、もうすこし日本のメディアは彼女を大きくとり上げるべきだと思いますが、どうでしょうか。
という状況だから、つまり今彼女は乗りに乗っているわけで、『SEVENth』は前作にも増して意欲的な作品となっている。まず、初のセルフ・プロデュース・アルバムであること。また、12曲中9曲をオリジナルで固め、アレンジは全曲を手がけているし、アルト・サックスだけでなくテナー・サックス、フルート、多重録音による一人サックス・セクションまでプレイするなど大活躍。バックは自身のバンドを中心にしながらも、2曲ではガールズ・ロック・バンドのブラックベリーズをフィーチャー(つまり全員女性による演奏)するなど、聴きどころ満載の内容になっている。
特に注目は「Driver's Meeting featuring Asano Sho」。浅野祥は1990年生まれの津軽三味線奏者。14歳で津軽三味線全国大会の最高峰であるA級の部で優勝、史上最年少のチャンピオン記録を持つ天才として注目を集め続けているが、なんと小林香織はここで彼に大胆にもファンクを弾かせてしまった。そして、唯一の英字表記ではない収録曲「新不了情 ~つきせぬ想い」。これは1993年の香港映画『つきせぬ想い』のテーマ曲をカヴァーしたもの。この映画は公開当時、中華圏で最も有名な映画賞である香港電影金像奨で主要6部門を受賞し、アジアで大ヒットを記録した。これだけでも、もう完全に彼女はアジア全域の活動を視野に入れていることがよくわかる。つまりこのアルバムは小林香織の「舞台はアジア」宣言なのです。日本のみなさん、小林香織からはますます目が離せないですよ。