キャンディ・ダルファーの出世作『サックス・ア・ゴー・ゴー』がブレイクしたのは1993年のこと。新人なのにタワー・オブ・パワー・ホーンズやメイシオ・パーカー&JBホーンズという大御所を従えて、それはそれは強烈なインパクトだったのをよく覚えてる。しかも美人だし、もちろんサックスもうまくてそもそも音楽がカッコいいときてるものだから、ブームになるのは当然だった。90年代にはその余勢をかって父親でサックス奏者のハンス・ダルファーまで日本に紹介され(共演もして)、ヒットさせてしまうというオマケもついた。月日が流れるのは早いもので、デビューから約20年、今では女性サックス奏者はめずらしくなくなったけど、そうなったのにはキャンディの存在が大きかったのは明らか。これは話題や人気だけじゃなく実力の証明だし、すばらしい功績と言えるものでしょう。
さて、新譜『クレイジー』は、前作からは約2年半ぶりとなるもの。デビュー作から一緒に音楽を作っているプロデューサーで作曲家のウルコ・ベッドもかかわっているけれど、今回はブラック・アイド・ピーズのミュージカル・ディレクターであるプリンツ・ボードをプロデューサーに迎えている。なんといったらいいのか、ユーロビートとヒップホップと、とにかくさまざまなダンサブルなビートを取り入れて、その上でキャンディのサックスが鳴り響くというパーティ・ミュージックに仕上がった。サックスの音そのものに存在感があるのはベテランの証だな。またアルト・サックスだけでなく、歌もうたうし、バス・クラリネットまで吹いている。
それにしてもカッコいい。40歳を超えてもなお時代とともに疾走する感覚、そして前進するエネルギーにあふれている。ここは「ジャズ・カフェ」なのにジャズっぽくないじゃない?という声も聞こえそうだけど、たしかにサウンドとしては、ジャズからはけっこう遠いし、ジャズ・ファンクともちょっと違う。でも、ジャズを聴いている人なら、きっとおもしろく聴けるはず。だってジャズっていうのはもともとスタイルのことじゃなくて、常に時代と共に前進する音楽のことなんだから。