昨年秋の『アフター・ダーク』からほぼ1年、ヘイリー・ロレンの新作が届いた。その間に彼女は2回も来日しライヴを行なっていることからもわかるように、日本での人気は急上昇中である。当然、彼女の日本への関心も高く、震災のことに心を痛めていることは、今回のアルバム内にもメッセージが記されていることからもわかる。それが新作にどんな影響を与えたかはわからないが、最後に入っているボーナス曲「このすばらしき世界」は、震災からの復興への祈りと聴いた。
さて、その新作『ハート・ファースト』だが、収録曲をざっと見ていくと、カヴァー曲のオリジナル・シンガーはさまざまで、統一感がないようにも思えなくもない。ジャズ・スタンダード、シャンソンはともかく、ボブ・マーリー、ニール・ヤングにヴァン・モリソン、トリオ・ロス・パンチョスなのだから。とはいえ、曲名を見ると一目瞭然。本編のテーマは、「ラヴ・ソング」ということがわかる。スタンダードの「テイキング・ア・チャンス・オブ・ラヴ」「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」も、ニール・ヤングは「溢れる愛(ロッタ・ラヴ)」だし、ヴァン・モリソンも「クレイジー・ラヴ」と、ラヴづくし。ボブ・マーリーの「ウェイティング・イン・ヴェイン」もラヴ・ソングだ。ブックレットには原歌詞と日本語訳も載っているから、気分だけじゃなく、じっくりと堪能できるのもいい。
それらの曲は出所も時代もさまざまな曲だけど、彼女にとってみれば、いずれも「過去の曲」という同じ距離感なのだろう。どれかがとび出すこともなく、違和感なく並んでいる。そしてその数々の名曲を自作曲(もちろんラヴ・ソングだ)4曲でつないでいくという、練りに練られた(と思われる)構成。またそのオリジナルもいいのだ。ピアノを披露したりと、多才なところも見せてくれる。これは彼女のアイディアではないのだろうが、ボーナス曲の「いとしのエリー」もラヴ・ソング。もちろん英語で歌っています。オマケ的な印象はまったくなしの充実の一曲。
そういう企画、選曲、構成を見ていくと、彼女はシンガーのみならずプロデューサーとしての力量もなかなかなもの(プロデューサーのクレジットは彼女とピアノのマット・トレーダー)。さらにクレジットを見ると、驚いたことになんと彼女はエンジニアでもあり、アートワークまでやっているのね。『ハート・ファースト』には歌うこと、聴かせること、見せることすべてに彼女の意思が生かされているということ。作品まるごとヘイリー・ロレンということですね。というわけで、ぜひCDで入手されることをおすすめします。そうそう、歌についてはもう説明なし。実力はみなさんもうご存知ですからね。