noonはジャンル分けすれば、迷うことなくジャズ・ヴォーカルなんだけど、いわゆる伝統的なジャズ・ヴォーカルとはちょっと違う。歌唱スタイル、例えば大胆なフェイクや、スキャットばりばりとはかなり違うし、また、例えば紫煙漂う夜中のジャズ・クラブみたいなイメージからも遠い。爽やかで明るくて素直に言葉を伝えて…、と書くとぜんぜんジャズ・ヴォーカルじゃないみたいにも思えるかもしれないけど、これは逆に伝統的なジャズ・ヴォーカルのイメージが古い時代の古いスタイルのまま固まってしまっているということなのだと思う。かと言って、noonのスタイルが、これが現在の主流だと言えるわけでもないけれど。つまり、実にユニークなオンリー・ワンのスタイルの持ち主ということなのです。
だから、これまでほんとに多くの人が歌ってきた歌、「ワンス・アポン・ア・サマータイム」「ティル・ゼア・ワズ・ユー」「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」など(ジャズ・ファンでなくてもどれも知ってるでしょ?)を歌っても、ああアレ風ね、ってところがないんだな。ジャズで歌う人はあまりいないと思われる「ケ・セラ・セラ」にしても、無理にジャズにして歌おうというところがない。音楽に押しつけがましいところはまったくないんだけど、そこには個性、自分らしさというものへの強い自信が感じられる。
また、noonを聴いて思うのは聴き終わったときの心地よさ、ほっとするあたたかさがあるということ。noonは癒しの音楽だなんて主張してないけど、とても癒されるんだな。ここのところ、どの音楽ジャンルでも「癒し」がひとつのテーマになっていて、世間にはそれを看板にした音楽があふれてる。「癒す」って単に耳あたりがいいとか、おだやかであるとか、慰めのメッセージがあるとかとは別のことだと思うけど、そこらへんが押しつけがましくてちっとも癒されないものも多いよね。でもnoonは違う。何と言ったらいいのかわかんないけど、すっと入って来る。自然体だからいいのかな。
収録曲はジャズ・ファンなら説明の要らない有名曲ばかり。でも最後の1曲「白い色は恋人の色」だけは説明しておきます。これはベッツィ&クリスという女性デュオが歌って1970年にヒットした日本のフォークソング(作詞: 北山修・作曲: 加藤和彦)。選曲としては他とはまったく別の流れなんだけど、不思議と違和感はない。どうしてこの曲を選んだのか、ぜひ聞いてみたいところ。日本語で歌っていることもあってか、これは妙に心にしみますよ。