このアルバムは渡辺貞夫の、音楽活動60周年記念アルバムとなる。1951年に上京し、プロとして音楽活動を始めて60年、1961年の初リーダーアルバム『渡辺貞夫』の発表から50年。なんとこれが71作め、常に日本のジャズ・シーンを引っ張り続けてきた渡辺貞夫の活動は、今もまったく衰えることはない。
本作は呼応するタイトルからもわかるように、2009年発表の前作『イントゥ・トゥモロー』の続編にあたる内容。全曲オリジナルのストレートなアコースティック・ジャズで、前作同様ジェラルド・クレイトン (p) ベン・ウィリアムス (b) ジョナサン・ブレイク (ds)をバックにしたクァルテット編成になっている。前作の紹介時にもふれたがバックの3人、ブレイクは30代、他のふたりは20代という若さ。渡辺貞夫からすれば息子世代よりも若いのだが、この相性の良さはなんだろう。渡辺貞夫は実にのびのびと"素(す)"で演奏していることが伝わってくる。演奏している時の渡辺貞夫はきっと60年前と少しも変わらないのだろう。だから、いつだって新鮮だ。
ただし、前作と大きな違いがひとつある。それは製作期間中に東日本大震災があったことだ。この未曾有の惨事に対して心を痛めない人はいまい。特に自分自身の心情を表現するジャズ・ミュージシャンなら、その気持ちが音に出ないはずはない。曲名をみても、「ウォーム・デイズ・アヘッド」「アイ・ミス・ユー・ホェン・アイ・シンク・オブ・ユー」など、被災者に対してのメッセージが込められている。また「ララバイ」は、「ねんねんころりよ」をアレンジした鎮魂歌である。
だからといって、音楽自体が重苦しいところはまったくない。先にも書いたように、ゴキゲンな演奏だ。バラードでは歌いに歌い、アップ・テンポではバリバリに吹きまくっている。いつもと変らないと言えば変らない。そうなのだ、渡辺貞夫の音楽は、いつも聴き手に希望を与え続けてきたんだ。いつだって素直過ぎるぐらいに自分の表現を貫き通してきたのが渡辺貞夫の音楽だった。自分を信じて演奏をすることは未来を信じることだ。声高にメッセージを叫ぶ必要はない。もともと音楽は、それ自体が希望の象徴なのだ。