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カフェの雰囲気でジャズや音楽の楽しみ方をご提案 - ビクタージャズカフェ

VICTOR JAZZ CAFE

2010年07月

沖仁『アル・トーケ』

2010.07.07 VICL-63615

Artist Review アーティストレビュー

今回紹介するのは、フラメンコ・ギタリストの沖仁(おき・じん)の新作。詳しい経歴等は彼のサイトでチェックしていただくことにして、ここではごく簡単にご紹介。1974年長野生まれ。(大幅に省略しますが)スペイン武者修行を経て、2000年から日本を拠点に活動。自身のフラメンコ・グループでの国内や南米ツアー、三味線の吾妻宏光とのイタリア公演、なんとフジロック(フェスティヴァル)にも出演するなど、さまざまな演奏活動で注目を集め、またクレモンティーヌのプロデュースやNHK大河ドラマの音楽制作など、演奏以外にも幅広く活動。その一方、権威あるフラメンコのコンクールでも度々上位入賞する実力者。で、ジャズなの?と聞かれれば、違うと答えることになるのかもしれないけど、このアルバムはジャズ・ファンにもぜひとも聴いていただきたいのであります。

さて、フラメンコという音楽は「歴史あるスペインの伝統音楽」と思われがちだけど、調べてみると実はそれほど歴史は長くはない。にもかかわらずそんなイメージが強いのは、長くはなくてもとても「深い」ことと、多くのルールがあったりするからではないかな。曲名には形式が並記されていたり、リズムに厳格な決めごとがあったりしますからね。

フラメンコ・ギタリストといえば、ジャズ・ファンには1980年代のスーパー・ギター・トリオやチック・コリアとの共演などでパコ・デ・ルシアの名前がよく知られていると思います。パコは元々「純」フラメンコのフィールドで活動していたわけだけど、フラメンコの「越境者」としてフラメンコ・ギターのイメージを大きく変えました。パコがいなければジャズ・ファンがフラメンコ・ギターを聴くことはなかった、 というのは大げさだけど、パコのおかげで幅広くいろんな人の耳にフラメンコ・ギターが届くようになった。そしてトマティーニョやビセンテ・アミーゴら、その精神を受け継ぐ若いプレイヤーが活躍し、ジャズまたはその他の音楽との共演は今では珍しくなくなりました。もちろん伝統的なフラメンコ・ギターはしっかりと残っていますので、変わったのではなく広がったということですね。 アルバム・タイトルの『アル・トーケ』はズバリ、「フラメンコ・ギターで」という意味。では、内容はガチガチの「フラメンコ」なのかというと、ギター・スタイル(楽器や奏法という意味で)はもちろんフラメンコなのですが、その精神は違います。

どう違うのか。先の話に戻りますが、スペインで修行を積んだ沖は、当然ながらパコ以降のフラメンコ・ギターの動向や、異邦人としての立ち位置を肌で感じていたようです。ライナーノーツで彼は語っています。「スペインで、伝統を受け継ぐギタリストたちと共に過ごして、逆に彼らとの違いを理解した。日本人の自分が、彼らと同じことはできないし、日本を拠点に、日本の人にも届く、自分なりのフラメンコを追求したいと思った」「フラメンコって、いわゆる通の為の音楽だっていう考え方がある。でも僕はフラメンコを通して、人間の輝きのようなものを、自分が繋がっているすべての人に届けたい。フラメンコという言葉すら知らないような人のもとまでも」。

確かに「通のため」というか、フラメンコにはマニアックなイメージがついて回りますよね(まあ、ジャズにもそうだけど)。またスペインの人以外には、その奥に込められた意味を十分に理解するのが難しい部分があることも容易に想像できる。だけど、それを取っ払えばもっとフラメンコは楽しめるということをこのアルバムは実践しているのね。いわばフラメンコの拡張形、あるいは未来形とも言えるものかもしれない。パコは内側からトライしたわけだけど、沖は外側からということかな。各曲のタイトルにもそれが表れていて、おもしろい。

1. プロローグ
2. 歌えロサリオ!
3. ソンリサ ~微笑の季節~
4. ミラドール・デ・コルドバ(ブレリア)
5. ア・ラ・ティエラ ~大地へ~(シギリージャ)
6. 葉山町
7. オンセ
8. セッション [with 大儀見元]
9. クラシック・メドレー[カノン ~ エリーゼのために ~ エル・ビート ~ トルコ行進曲](ブレリア)
10. あなたのもとへ
11. 胎動(タラント)

タイトルの後についているカッコは、フラメンコの「曲種」のこと。フラメンコのCDを見ると必ず書いてある。これがあるということは、それはフラメンコの流儀で作られ演奏されているということなんだけど、その一方で「葉山町」「トルコ行進曲」があったりと、これだけでも幅の広さがわかるというもの。

内容は、弦楽入りの(1)(10)、ホーン・セクションが加わる(2)、ベースを入れプログラミングまで導入したフュージョン風(7)、パーカッションとの決めごとなしフリー・デュオ・セッションの(8)、よく知られたクラシックの楽曲をフラメンコにしてしまった(9)、ソロ・ギターの(5)(11)などなど、さまざまなスタイルによる「沖仁の」フラメンコ・ギターを聴かせてくれる。最後まで一気に聴き進んでしまう勢いがあるね。もちろんジャズ・ファンのあなたなら、ジャズとしての聴き方でオーケイ。絶対に楽しめます。今度はあなたが「越境」する番です。

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